カスタマーサクセスを実践するうえで、先駆者たちが作った「型」はとても役に立ちます。なかでもカスタマーサクセスのバイブルとして有名な「青本」の「10の原則」は参考にした方も多いはず。
ただし、青本がアメリカで出版されたのは2013年と10年近く前で、その間にカスタマーサクセスの考え方も移り変わってきました。
では、2022年の最先端のカスタマーサクセスが顧客の成功のために守るべき原則とはいったいどのようなものなのでしょうか。
この記事では、ゲインサイトが2021年にアップデートした新たな「10の原則」の内容のうち、後半の5つを紹介しながら、日本のカスタマーサクセスでの実践についても解説します。
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【2022年最新版】(前編)カスタマーサクセスが守るべき最新の「10の原則」とは?
出典:5 Top Customer Success Talks at SaaStr Annual 2021 | SaaStr
原則⑥担当者が退職した時のオペレーションを作ろう
あまり意識されていないポイントですが、積極的に活用していた顧客側の担当者が退職する際の対応は、実は解約リスクを大きく左右します。
担当者の退職は解約リスクを大きく高める
同じ企業でも、人やチーム単位でモチベーションには違いがあるものです。
もし製品の活用を熱心に進めてくれる担当者がいるのなら、その人が退職して担当が変わることで顧客社内での活用度が低下したり、活用ノウハウが失われる可能性があります。これは解約リスクにも繋がりかねません。
担当者が退職した際には、オンボーディングと同程度のサポートやサービス説明を新しい担当者に行うことで、ロイヤルティの維持に努めることが重要です。
あらかじめ退職時のオペレーションを決めておく
担当者が退職しても活用度を下げないためには、そもそもひとりで活用を推進するワンオペの状態を作らないことが重要です。
できる限り担当者を複数つけてもらう、社内での情報共有を促すなどをしておけば、ひとり退職してもそれほど大きなダメージはないはず。
また、担当者の退職前に上長や後任担当者にできるだけ早くコンタクトをとり、あらためて活用の目的やサービスの価値を説明しておくことも重要です。
なお、退職した担当者が転職先で利用してくれることもあるため、辞めた後もフォローしておけば新たな顧客となるチャンスも生まれます。
原則⑦プロダクトとCSは親友になるべき
プロダクトはSaaSの提供価値のコアになる最重要部分。顧客にとって価値のあるものにするには、顧客の要望を知るカスタマーサクセスと開発が互いに理解し合う必要があります。
CSは「顧客の声の運び手」
カスタマーサクセスは、顧客と頻繁に関わり、常にVOCを集められる仕事。つまり、プロダクトが顧客にとって価値のあるものになっているかを確かめられる役割です。
カスタマーサクセスが集めたVOCを適切に開発に反映できれば、顧客が使いたいプロダクト、成果を得られるプロダクトへと近づきます。
開発はスケジュールや技術的な制約に沿ってプロダクトを作っており、それぞれ視点が違うため完全に足並みを揃えるのは難しいものの、コミュニケーションや情報共有を通じて相互理解を深めることが重要です。
「共通言語」を作ろう
カスタマーサクセスと開発が同じ目線でプロダクトを捉えるには、共通言語を作ることが重要です。
例えば、githubのアカウントを全員が持って開発状況やVOCの共有ができるようにする、カスタマーサクセス側のヘルススコアやCSツールのダッシュボードを開発側も見られるようにするなどの施策が効果的です。
また、このようにカスタマーサクセスの目線を開発に取り入れていくには、やはり原則①のようにカスタマーサクセスが部門として独立し、事業全体のコアになることが重要です。
原則⑧プロダクト(テクノロジー)でタイムトゥバリューを加速させる
顧客に提供できる価値や価値を感じてもらうまでのスピードをより向上するためには、プロダクトやテクノロジーの力をうまく取り入れると効果的です。
「PLG(プロダクト・レット・グロース)」とは?
顧客体験をプロダクトやテクノロジー上で完結させて、より素早く、より効率よく価値提供する「PLG(プロダクト・レット・グロース)」という考え方がアメリカでは主流になりつつあります。
製品の一部を無料で開放し、自発的に価値を感じて有料版を契約してもらうほか、オンボーディングや学習、案内もプロダクト内で完結する仕組みづくり。
人の手を無駄に介さないことで顧客体験がスムーズになり、支援する側もコストが抑えられスケールにも有利です。
ハイタッチから徐々にテクノロジーで代替していく
現実的には、セールス段階から全ての顧客体験をプロダクト内で完全に完結するのはほとんどの企業にとっては難しいところ。
なので、テクノロジーによって代替できる/するべき部分とそうでない部分の切り分けが重要になってきます。「人が伝えるべきところ」かそうでないかという視点が重要です。
進め方としては、立ち上げから一定の期間はハイタッチでの支援を徹底し、規模の拡大に合わせて徐々にテックタッチで代替する領域を見極めていくのが良いでしょう。
適切な切り分けでテックタッチを取り入れられれば、顧客のセルフエデュケーションや支援コストの最適化など、カスタマーサクセスのパフォーマンスの最大化も期待できます。
原則⑨NRRを深く理解しよう
カスタマーサクセスが追うべき指標はいくつかありますが、なかでも顧客の売上維持率を表すNRRは最重要とも言える指標です。
NRRはなぜ重要?
原則①でも解説したとおり、SaaS企業にとって既存顧客はますます重要になっており、それをどれだけ維持できているかは必ずチェックするべきポイントです。
顧客数ベースの解約/継続率ももちろん有用ですが、事業の成長をより正確に予測するのなら、売上ベースのNRRを見るのが良いでしょう。
もしNRRを100%以上に保てるのであれば、既存顧客だけでも事業は成長できます。また、この指標は時価総額や投資家からの評価とも深く関係しています。
NRRを高める施策とは
NRRを100%、あるいはそれに近い水準でキープするには、解約やダウングレードの防止、そして顧客単価の向上が欠かせません。
ヘルススコアやアンケートによる解約/ダウングレード要因の特定、あるいは解約料金プランやオプションサービスの追加などが効果的です。
とはいえ、まずはコアプロダクトを固めて顧客体験のベースを作り上げることを優先し、その先にNRR向上施策があることを覚えておきましょう。
原則⑩カスタマーサクセスは指標ドリブンであるべき
カスタマーサクセスがより多くの顧客の成功に伴走するためには、やはり指標を活用することが重要です。
カスタマーサクセス指標は経営レベルでも重要に
国内外問わず、上場企業では経営指標としてカスタマーサクセス関連の指標を開示するのがトレンド。ARR、ARPU/ARPA、チャーンレート、NRR、LTV、CAC、NDRなどが当てはまります。
原則⑤で解説したCS Opsの観点からも、こうした指標は経営レベルで必ずウォッチして、これを元にカスタマーサクセスのパフォーマンス改善を図るのがいまや当たり前となっています。
細かいデータ分析は意外と下火……どの数字を見るべき?
実は、複数の指標を組み合わせて複雑なヘルススコアを設計したり、細かくデータを分析して顧客支援に活かしたりというやり方はアメリカではやや下火になっているようです。
データを組み合わせることで個々の指標の傾向が見えにくくなるリスクがあるほか、手間のかかる分析やレポーティングは必ずしも効果に見合わないこともあります。
特にフェーズの若い企業では、売上や解約に対して強い相関のあるシンプルな指標をいくつか見つけ、それを追う方が効率も良くおすすめです。
まとめ
2013年に発表された青本と10の原則、2021年には内容がアップデートされ、今のカスタマーサクセスにとってより参考にしやすいものになりました。
当時と比べてよりテクノロジーが進歩し、プロダクト自体、あるいはテックタッチによる支援の重要性が増してきており、顧客体験を製品上で完結するようなサービスも増えてきています。
その流れのなかで、カスタマーサクセスは顧客体験を設計するほか、人にしか伝えられないことをしっかりと伝えきる、顧客の状況を把握する、VOCを集めて製品の改善に活かすなど、価値提供の中心的な役割をより多く担うことになっていくでしょう。
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【2022年最新版】(前編)カスタマーサクセスが守るべき最新の「10の原則」とは?