ここ数年、SaaS業界を中心として日本においてもカスタマーサクセスの重要性が大きくなりつつあります。顧客の成功に伴走しながら良質な成功体験を提供することができれば、LTV(顧客生涯価値)、ひいては企業価値を高めることにつながります。
一方で、まだまだ日本におけるカスタマーサクセスは歴史が浅く、方法論もはっきりと確立されているとは言えません。
今回は、理想的なカスタマーサクセスのモデルケースを『組織設計』『可視化』『活性化』という3つのテーマごとに紹介します。
顧客に合わせたアプローチと『組織設計』
顧客に最適化したチームづくり
顧客の規模、フェーズにあわせて分担したカスタマーサクセスチームの組織を行っています。
顧客企業数や自社の人員拡大にあわせて5つのチームに細分化。
- 大規模顧客向けのカスタマーサクセスマネジメントチーム
- 中小規模向けのカスタマーサクセスマネジメントチーム
- オンボーディングチーム
- テックタッチチーム
- データを元にしたサポートの企画や設計を行うチーム
顧客企業の規模による分担だけではなく、それらを横断した「オンボーディング」「運用企画」「テックタッチ」という縦軸横軸での役割分担をしたチーム編成とすることで、高い継続率を実現したケースです。
カスタマーサクセス、セールス、マーケティングとの三位一体の組織づくり
カスタマーサクセスにおけるよくある課題として、ある程度使ってもらわなければ顧客がサービスの価値を感じづらいという点があげられます。
そのような課題に対し、カスタマージャーニーにおける立ち上げ段階、つまり、オンボーディングを重視した支援を提供し、定着率を向上させることができます。
オンボーディングに注力することで顧客が製品/サービスを日常的に利用するという状態をつくりだし、そこからさらに顧客の成功を重視した組織づくりへと軸足を移管。
そのような取り組みを土台とし、「カスタマーサクセスマネジメント」、「カスタマーマーケティング」、「リニューアルセールス」と、従来の3つの部門の機能を横断した体制を作り、継続率向上だけではなく、継続売上や顧客体験の向上が実現できます。
スコアリングによる顧客状態の『可視化』
カスタマーサクセスにとって、顧客の状態を正確に把握するということは重要なポイントです。一方で、どのようなデータが必要で、それをどのように可視化・分析するかは、いまだ正解が存在せず難しい領域でもあります。
しかし、独自の指標を用いてスコアリングやランク付けをすることで顧客の状態を可視化し、顧客への的確な支援に活かしていくことができるようになります。
オリジナル指標の策定①
時には数百万~数千万人のユーザーに利用されるコミュニケーションツールのようなプロダクトにおいては、利用状況の定量的な把握が顧客価値向上への大きな源泉となっています。
顧客価値を測る指標として、
- Adoption(導入)
どれだけサービスにログインしているか
- Maturity(成熟度)
プロダクトをどれだけ使っているかにとどまらず、他アプリケーションとの連携といった、活用方法の成熟度合を可視化
- Sentiment(感情)
サービスに対してどれだけ好意的な評価をしているか
の3つを軸にスコアリングをして、エリアや顧客フェーズごとに支援方法の策定を行っています。
オリジナル指標の策定②
解約率/継続率を改善するために独自のヘルススコアを指標化し、可視化。ヘルススコアのデータを基に施策を策定することで、手厚い支援を安定的、かつ効率的に行うことが可能となります。
どれくらいサービスを利用しているかを測るための、接続数、稼働ID数、発行ID数などの指標の他、ユーザーがどのくらいのレベルで利用しているかをはかるためのスタープレイヤーの有無・人数・推進度合いを可視化します。
他にも、カスタマーサクセスが提供しているコンテンツにどれくらい反応してくれているかをはかるために、イベントへの参加数、オンラインコンテンツへの接触など、これらの状況をスコア化し、その合計によって顧客の状態をいくつかのレベルに分類することで、最適なアクションを選択、実践することが可能となります
カスタマーコミュニティによる『活性化』
顧客のロイヤルティを高める方法として、運用そのものの支援の他にも、ユーザー同士の情報交換や交流の場を設けて活性化するという手法を取り入れている企業も多く存在します。
ユーザーコミュニティの充実
「オンラインコミュニティ」、「テーマ・業種別の分科会」、「ユーザー会」、「表彰や賞賛のためのアワード」など、ユーザー同士の情報交換、交流の場を提供することでユーザーの利用が活性化し、ロイヤルティの向上が見込めます。
顧客を成功に導くのは必ずしもカスタマーサクセス担当者だけではなく、コミュニティに属するユーザーと協力していくことで、セルフサービスでの課題解決という手法を生み出しました。
顧客主体の機能改善
ユーザーが主体となったコミュニティにより、課題解決やロイヤルティの向上だけではなく、製品の機能改善をも実現しているケースがあります。
ユーザーが自由に機能への要望やコメントを提案したり投稿したりできるオンラインプラットフォームを提供。
投稿者以外のユーザーも、その投稿に対してコメントをしたりリアクションを行いやすくしたりする仕組みにすることで、コミュニティ内のコミュニケーションが活性化。特にニーズの大きい要望が可視化されることで、カスタマーサクセスや開発部門が連携し、機能開発の優先順位付けに反映。定期バージョンアップの中で実装されることもあります。
このような取り組みにより、ユーザー目線での使いやすいサービスを常に体現し、ファン化にも成功しています。
まとめ
カスタマーサクセス活動におけるいくつかのベストプラクティスを紹介しました。
組織、データ、ユーザーと切り口や手法はさまざまですが、顧客の成功に寄り添い、そこから逆算した取り組みが功を奏しているという部分では共通しています。
カスタマーサクセスの方法論はまだまだ確立していないのが実情ですが、今回紹介した取り組みは、今後のカスタマーサクセスのモデルケースとなるような内容ばかりです。比較的取り入れやすいものもありますから、ぜひ参考にしてみてください。