バイヤーイネーブルメント実践のステップ - 現場に定着させるための進め方

  • 公開日:2024年5月18日(土)

近年、BtoBセールスにおいて注目を集めているのが、バイヤーイネーブルメント(Buyer Enablement)です。これは、顧客の購買プロセスに沿って情報や支援を提供し、意思決定を促進させる営業手法を指します。

従来の営業が自社の都合を優先しがちだったのに対し、バイヤーイネーブルメントでは徹底的に顧客視点に立ち、彼らの購買ジャーニーに寄り添うことが求められます。単なる情報提供だけでなく、顧客の組織内での合意形成をサポートすることも重要な役割となります。

しかし、こうした営業スタイルの転換は一朝一夕では成し遂げられません。新しい考え方を営業現場に定着させ、個人の習慣から組織文化へと昇華させるには、戦略的なステップを踏む必要があります。

本記事では、バイヤーイネーブルメントの実践フレームワークを5つのフェーズに分け、各ステージで取り組むべき具体的な方法を解説します。組織変革の羅針盤として、ぜひ参考にしてください。

フェーズ1:現状の可視化と目標設定

バイヤーイネーブルメントへの移行は、いわば営業組織の変革プロジェクトです。どのような変革でも、まずは現状を可視化し、目指すべきゴールを明確にすることが肝要です。

営業のKPIや商談プロセス、パイプラインの状況など、現在の営業活動の定量的な側面をデータとして可視化します。ここではSFA(営業支援システム)などのITツールを活用し、客観的な事実に基づいて現状を把握することが重要です。

また、定性的な観点からも、営業活動の棚卸しを行います。担当者へのヒアリングを通じて、商談の進め方や顧客コミュニケーションの特徴を言語化。営業スキルや意識の現況を明らかにしていきます。

こうした現状分析を経た上で、バイヤーイネーブルメントの導入によって目指す姿を設定します。例えば、以下のような定量・定性の双方を含む目標を掲げることが考えられるでしょう。

  • 商談期間の●%短縮
  • 案件の受注率を●%向上
  • 新規顧客からの売上を●円増加
  • 顧客からの信頼を獲得し、リピート率●%達成
  • 営業スキルを標準化し、担当者間のバラつきを解消

目標は達成水準と期限を明確に定め、営業組織全体で共有することが大切です。

フェーズ2:営業プロセスの再設計

次に着手すべきは、営業プロセスの抜本的な見直しです。従来型の営業は、どうしても社内の論理に引きずられがちでした。商材の機能訴求を前面に押し出したり、自社の売上目標に沿った商談運営を優先したりと、顧客のニーズよりも自分たちの都合を先行させてしまうのです。

バイヤーイネーブルメントは、そうした営業の在り方を180度転換させる試みだと言えます。事あるごとに「顧客にとっての価値は何か?」「買い手の意思決定プロセスに合わせるには?」といった問いを自らに投げかけ、徹底的に顧客起点で営業プロセスを組み立て直すのです。

とはいえ、いきなりゼロベースで業務フローを設計し直すのはハードルが高いかもしれません。その場合は、既存の営業プロセスを起点に、各局面でバイヤーイネーブルメントの視点を加味していく方法が有効でしょう。

例えば、商談の初期段階では「顧客のゴールは何か?」「解決すべき課題は何か?」を深く探ることに注力し、自社の商材訴求は後回しにする。提案フェーズでは、事前に把握した顧客の課題に対して、自社の強み・ソリューションを紐づけて説明する。購買の意思決定段階では、買い手側の意思決定プロセスを理解した上で、意思決定者や関係部署への働きかけ方をアドバイスする──といった具合です。

また、こうした営業プロセスの変革は、単に現場の心がけだけで達成できるものではありません。顧客データの整備、コンテンツの拡充、ITツールの導入など、バックオフィス側の手厚いサポート体制も求められます。

例えば、openpageのようなバイヤーイネーブルメント支援ツールを導入することで、顧客の購買ステージに合わせた適切な情報提供が可能になります。オンライン上の顧客ポータルを通じて、資料やFAQ、事例集などを提供することで、営業担当が個別に説明する手間を大幅に削減できるのです。

こうしたITツールの後押しを受けながら、地道に営業プロセスの変革を積み重ねていくことが肝要と言えるでしょう。

フェーズ3:コンテンツの拡充

バイヤーイネーブルメントにおいて、適切な情報やコンテンツを顧客に提供することは非常に重要な要素です。買い手の意思決定をスムーズに進めるには、タイムリーな情報の提供と課題解決に直結するナレッジの充実が欠かせません。

そこで、営業プロセスの変革と並行して、営業コンテンツの整備・拡充に取り組む必要があります。まずは、既存の営業資料やツールを棚卸しし、バイヤーイネーブルメントの観点から見直しを図ります。

従来の営業資料は、どうしても自社製品の機能や性能を前面に押し出すものが多かったのではないでしょうか。それを、顧客の課題解決や価値提供につながるストーリー性のあるものへと組み替えていく作業が求められます。

また、汎用的な資料だけでなく、顧客の業種・業態に特化したオーダーメイドのコンテンツを準備することも重要なポイントです。顧客のビジネスや市場環境を深く理解した上で、その文脈に沿ったメッセージを盛り込むことで、強い共感と納得を得られるはずです。

もちろん、コンテンツの拡充は営業部門だけで担うべき仕事ではありません。 マーケティング部門との密接な連携が求められます。営業の現場感覚とマーケターのコンテンツ制作力を掛け合わせることで、顧客インサイトに基づいた質の高いコンテンツを生み出せるでしょう。

加えて、ナレッジマネジメントの仕組み作りも重要な課題です。せっかくの良質なコンテンツも、共有や活用の仕組みが整っていなければ宝の持ち腐れになってしまいます。

社内でのコンテンツ共有を進める上では、SFAなどの営業基盤にコンテンツを統合管理する、専用のポータルサイトを立ち上げるなどの施策が考えられます。誰もが必要な情報にアクセスできるよう、情報の一元管理を徹底することが重要です。

さらに、蓄積したコンテンツを顧客に効果的に届ける施策も欠かせません。openpageなどのITツールを活用することで、顧客の課題や関心に合わせて最適なコンテンツを自動で提供したり、ユーザーの閲覧履歴から関心の高いコンテンツを識別して追加提案につなげたりするといったことが可能になります。

こうした営業とマーケが一体となったコンテンツ拡充の取り組みによって、提案力や説得力の高い営業活動を実現していくことが求められます。

フェーズ4:教育と浸透

いかに理想的な営業プロセスを設計し、充実したコンテンツを用意したとしても、それを実践できる人材がいなければ絵に描いた餅に終わってしまいます。バイヤーイネーブルメントを組織に根付かせるためには、それを担う営業人材の育成が欠かせません。

まず取り組むべきは、バイヤーイネーブルメントの考え方や手法を営業部門全体に浸透させる教育施策です。単発の研修ではなく、継続的な学びの機会を設けることが重要となります。

例えば、定期的な勉強会の開催、eラーニングの導入、外部講師を招いてのセミナーなど、様々な学習の場を用意し、営業スキルの向上を図ります。その際、座学だけでなくロールプレイングなどの実践的なプログラムを盛り込むことで、知識の定着を促すことも大切です。

また、こうした教育は営業部門に閉じたものではなく、他部門を巻き込んだ取り組みとすることが望ましいでしょう。 前述の通り、バイヤーイネーブルメントはマーケティングやカスタマーサクセス、製品開発など、様々な部門との連携によって成り立つ営業スタイルです。組織全体でバイヤーイネーブルメントへの理解を深め、共通言語を醸成することが求められます。

一方で、教育や研修による学びを現場の行動変容に結び付けるためには、日々の営業活動の中で実践し、振り返る機会を設けることも重要です。

ここで効果的なのが、営業マネージャーによる同行や定期面談です。部下の商談に帯同し、バイヤーイネーブルメントの視点から適切なアドバイスを行う。日々の活動を振り返り、うまくいった点・改善点を話し合う。こうしたOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)を通じて、バイヤーイネーブルメントの考え方を血肉化していくことが肝要です。

さらに、バイヤーイネーブルメントのスキルを習得・実践できている営業担当を評価・処遇に反映させるなど、人事制度とも連動させることも効果的でしょう。顧客起点の提案を行い、案件を獲得した営業をしっかりと評価する仕組みを作ることで、組織全体にバイヤーイネーブルメントを根付かせるインセンティブとなります。

こうした教育と実践、評価のサイクルを繰り返し回していくことが、バイヤーイネーブルメントの組織浸透において重要なカギを握ると言えるでしょう。

フェーズ5:PDCAサイクルの確立

最後に、バイヤーイネーブルメントの定着を持続的なものとするために欠かせないのが、PDCAサイクルの確立です。せっかく構築した仕組みも、運用を継続的に改善していかなければ、いつしか形骸化してしまうおそれがあります。

まず重要なのが、適切な指標の設定と測定です。フェーズ1で設定した目標の達成度をしっかりと確認し、取り組みの成果を定量的に把握することが求められます。

営業の各プロセスにおけるKPIを設け、定点観測を行うことが重要です。商談化率、受注率、商談期間、新規顧客数、顧客単価など、様々な指標を用いて施策の効果検証を行います。

また、これらのKPIを営業のインセンティブ設計にも落とし込むことで、バイヤーイネーブルメントの考え方に基づく行動を組織全体に定着させることができるでしょう。

さらに、定量データだけでなく、定性的な情報収集も欠かせません。顧客からのフィードバックや、営業担当へのヒアリングなどを通じて、プロセスや

コンテンツの課題や改善点を抽出する取り組みも重要です。

こうして収集した定量・定性の情報を分析し、施策の効果や課題を明らかにした上で、次の打ち手を考える。PDCAを回すごとに、営業プロセスやコンテンツ、教育プログラムなどを磨き上げ、バイヤーイネーブルメントの完成度を高めていくのです。

ただし、こうしたPDCAサイクルは、トップダウンで仕組化するだけでは形骸化してしまうおそれがあります。重要なのは、現場の営業担当一人ひとりがPDCAを実践する主体となること。常に顧客視点を持ち、自らの行動を振り返り、よりよい提案につなげていく。そうした意識を組織全体に醸成することが何より大切だと言えます。

また、PDCAサイクルを効果的に回すためには、それを下支えするツールやプラットフォームの存在も欠かせません。

営業活動の可視化や分析、コンテンツ管理や共有、タスク管理など、バイヤーイネーブルメントに必要十分な機能を備えたITツールを活用することで、日々の改善サイクルをスムーズに回すことが可能となります。

中でも、openpageのようなバイヤーイネーブルメント支援ツールは、営業プロセス全体を最適化するためのプラットフォームとして効果的です。

商談の内容や経緯、タスクなどを顧客との間で透明化し、認識のズレを防ぐことができます。 議事録やアクションアイテムを共有し、営業担当と顧客の両者がタスクの進捗を把握できるようになります。

また、資料やFAQなどのコンテンツを顧客ポータルで提供することで、自己学習を促し、営業の生産性を高める効果も期待できます。 営業活動のデータを蓄積・分析することで、プロセスの課題や改善点、ナレッジの抽出なども容易になります。

こうしたITツールを営業活動に組み込むことで、PDCAを日常的に回す仕組みを整えることができるのです。もちろん、ツールはあくまで手段であって目的ではありません。ツールを現場の営業に定着させ、データドリブンな改善を根付かせるには、地道な変革マネジメントが欠かせません。

とはいえ、営業DXの時代において、バイヤーイネーブルメントの実践とテクノロジーの活用は不可分の関係にあると言えるでしょう。ITツールを効果的に取り入れながら、顧客起点の営業を追求し続けること。それこそが、バイヤーイネーブルメントのゴールであり、これからの営業組織に求められる変革の方向性だと言えます。

まとめ

バイヤーイネーブルメントは、BtoBセールスの現場に大きな変革を迫るものです。顧客の購買プロセスに寄り添い、意思決定に必要十分な情報提供や支援を行うこと。それは、従来型の営業の在り方を根本から問い直す取り組みに他なりません。

本記事では、バイヤーイネーブルメントの考え方を組織に浸透・定着させるための5つのフェーズについて解説しました。

現状の可視化と目標設定、営業プロセスの再設計、コンテンツの拡充、教育と浸透、PDCAサイクルの確立。これらのステップを着実に踏んでいくことが、バイヤーイネーブルメントの実践において重要となります。

もちろん、こうした変革の旅路は決して平坦なものではありません。営業部門を中心に、組織全体の壁に直面することもあるでしょう。しかし、顧客起点の営業こそが、これからの時代に求められるスタンダードであることは間違いありません。

openpageのようなITツールも活用しながら、地道な改善を積み重ねていくこと。トップの強力なリーダーシップの下、現場の一人ひとりが変革の主体者となること。そうした地道な努力の積み重ねによって、バイヤーイネーブルメントは着実に組織に根付いていくはずです。

この記事が、営業組織の変革に取り組む全ての方にとって、道標の一つとなれば幸いです。バイヤーイネーブルメントの実践を通じて、顧客との新たな関係性を築いていただければと思います。

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