企業にとって、売上を上げることは永遠のテーマですが、
売上の上げ方を「クロスセル」という観点から説明します。
「売上をあげたい」と思ってもなかなか上がらないものだとは思いますが、クロスセルは売上を上げる1つの手段です。
クロスセルとは、顧客単価の向上を目的として、顧客が購入する商品と併せて他の商品等を購入してもらうことをいいます。
今回はカスタマーサクセスの観点から、この「クロスセル」について解説します。
クロスセルをする前に重要なこと
クロスセルをするためには、クロスセルをする前に「1つの主力製品の満足度をとにかく高める」ことが重要です。
会社の製品で主力になっている製品(1番の稼ぎ頭、一番有名な売れている製品等)について、
①カスタマーサクセスが実現できている状態
②カスタマーサクセスが実現できていない状態
上記のうちどちらがクロスセルした時に受注率が高いかというと、当然ながら①の方が受注率が高いというデータがあります。
主力製品を販売して、お客様が「よかったな」「効果が出る」「満足度が高い」と思っていただく方が、「じゃあ、他の製品も見てみようかな」と思ってもらいやすいですよね。
「主力製品を買ったはいいけどあんまり使いこなせない」
「顧客体験的にもあまりよくなかった、満足度が低い」
となると、他の製品を販売(クロスセル)するのはなかなか難しいでしょう。
その意味で、クロスセルに重要なのは「主力製品のカスタマーサクセス」であると言えます。
消費者の目線でも考えてみましょう。
「このお店で買ったらいい体験できた、いい思いができた」と感じたら、「じゃあもう一回行こう、もう一回使ってみよう」と思いますよね。
例えば、モバイルバッテリーで有名なAnker社のモバイルバッテリーをAmazonで購入したとしましょう。
その後、Ankerのスピーカーやイヤホン、ヘッドフォン、プロジェクターなど、Anker社の他製品もどんどん買う人は一定数いると思います。
なぜなら、元々一番最初に買った「モバイルバッテリー」に満足したからであり、
最初の製品の体験の部分で「これいいな」と思えば、「同じ会社が出している他の製品も見てみようかな」となりますよね。
BtoBのSaaS(Software as a Service)のビジネスでも、
まず1つ目の主力製品で「こんないい製品を提供してるのであれば、他の製品も素晴らしいに違いない!」と思ってもらうことが重要になります。
主力製品でカスタマーサクセスがしっかりとできていれば、自社のお客さんの基盤がしっかりできてきます。
そこからクロスセルを駆使して他の製品の売上を高める、という戦略を取りやすくなっていくのです。
この戦略を企業経営として徹底できるかどうかで、最終的・総合的な売上は大きく違ってくるでしょう。
クロスセルで何を売る?
主力製品でしっかりカスタマーサクセスをすることが重要ですが、
もう1つクロスセルをする上で重要なことは、「クロスセルに必要な適切なメニュー・商品の開発をしっかりと行うこと」です。
クロスセルは、1つの製品を買っていただいた後に他の製品を買っていただくことなので、
それぞれの製品があまりにも関係ない(シナジーがない)と、お客様もなかなか買いづらいですよね。
その意味では、主力製品と他製品の繋がりは非常に重要になってきます。
企業において、ある程度主力製品が伸びてきた段階において、次に新規事業開発や新製品開発などを行うケースも多いでしょう。
そういったケースでは、なるべく主力製品と関連するような、例えば「主力製品の次にこういうものもあると便利だよね」とお客様に思ってもらえる製品やサービスを開発することが重要です。
主力製品と関係性のある製品の開発の進め方としては、
特定の分野でカスタマーサクセスを成功できるような主力製品が生まれた時に、
「もっと別の分野・視点でサービス開発しよう」という思考であれば新規事業開発として、
「さらにプラスになる部分も開発していこう」といった意思決定をする場合には、
主力製品の「追加メニュー」の開発として進めていくと良いでしょう。
カスタマーサクセスにおいても、オプションメニューでコンサルティングメニューを作るなど、「プラスアルファ」の価値提供をすることで、結果的にクロスセルや売り上げを高めるケースにも繋がります。
そういったメニューをどう設計するのかも、クロスセルの観点からは重要です。
ちなみに日本の1980年代のバブル期においては、お金が有り余っているために、「自社の製品と関係ない事業」に手を広げすぎてしまいました。
結果として事業のシナジーが生まれず、クロスセルが生まれないために経営が失敗した、といったケースが多数ありました。
それと同じ状態が、BtoB向けのSaaSを提供しているベンチャー企業等でも起こり得るかもしれません。
例えばベンチャーキャピタルから数十億円調達したベンチャー企業があったとします。
資金調達をすると「あれも、これも」と様々な事業ができそうな気になってきますが、
それを機に主力製品と事業シナジーが生まれないような事業を作ってしまう、
あるいは、シナジーはあるがクロスセルとしての売上が十分に出ない製品を開発してしまう、というケースも多くあります。
その意味では、様々な要素を含むクロスセルは、経営的にとても難しい概念と言えますね。
経営的には難しいですが、既存製品とシナジーのある他製品や追加メニューの開発ができれば自社の売上アップに繋がりやすくなるため、積極的にチャレンジしてみる価値はあるでしょう。
事実、日本のSaaS関連のビジネスモデルの場合、多くの会社が、上場に向かう過程で新しい事業を作っています。
つまり、「主力製品以外の分野で売上を積んでいく」という戦略を各社取っているのです。
1つの事業を伸ばしていくのは重要ですが
「クロスセルとしてどう売上を高めていくのか」
「その上でどのような事業を会社経営として行っていくのか」
を意思決定することも非常に重要なのです。
カスタマーサクセス部門として、クロスセルをどうおこなっていくのか
クロスセルによる売上アップのためには、企業経営の意思決定として、既存製品とシナジーのある製品や追加メニューの開発が重要だとご説明しました。
それでは、カスタマーサクセス部門としてクロスセルはどのように行っていくべきでしょうか。
クロスセルを行っていくために、カスタマーサクセス部門が対応する前の「ポストセールス」の部隊を作ることが非常に重要です。
カスタマーサクセス部門においては、一般的に「セールスの機能」はどうしても弱くなってしまいがちです。
なぜなら、カスタマーサクセス部門にはお客様のトレーニング、質問への回答や顧客提案等、セールスだけでなく様々なミッションがあります。
そのため、どうしてもセールスという領域は組織として弱くなってしまう傾向にあるのです。
クロスセルできるような事業がある程度揃ってきたら、そのタイミングでカスタマーサクセス部門の中にセールスの人を異動させ、1つの製品が成功したり、売上が大きくなった後に「ポストセールス」として他の事業をうまくクロスセルしていく仕組みが重要になるでしょう。
CSに異動するセールスで向いている方は?
主力製品をカスタマーサクセスする、ということが前提になるため、「主力製品についてよく知っている方」が特にセールスに向いていると言えるでしょう。
例えば主力製品のカスタマーサクセスを一度でも経験したことがある方が良いでしょう。
お客様からすると、あくまでも「購買・利用の体験としての延長線上」で他の製品を買おうとする体験が好ましいですが、
担当するセールスが主力製品のことを全く知らない状態で対応してしまうと、「ただ売るだけ」のセールスになってしまい、どうしても受注率が下がってしまいます。
そのため、各企業のリソースや要件的には難しいかもしれませんが、「カスタマーサクセスがわかるセールスの方」がカスタマーサクセス部門には必要なのです。
カスタマーサクセス部門のセールスのポジション名
ポジション名として特に確立されたものは現状なく、各企業でそれぞれ名付けられた役職であることが多いです。
部門で言うと「カスタマーセールス部門」「カスタマーグロース部門」「カスタマーリレーション部門」等、「グロース」「リレーション」等のワードが部門名についていることが多い印象です。
「グロース」と言われたらクロスセルっぽいですし、セールスがやることで伸びていく感じもしますよね。
あくまでも「お客様に売る」よりは「お客様に成功していただく」「自社の製品を提供して、お客様の会社がもっとよくなる、売上が伸びる」ということをイメージして販売していくと思うので、「カスタマーグロース」という言葉もフィットするのではないでしょうか。
まとめ
クロスセルは、顧客単価の向上を目的として、顧客が購入する商品と併せて他の商品等を購入してもらうこととご説明しました。
クロスセルを推進していくことは、自社の売上アップに直結する企業経営上重要な意思決定です。
クロスセルをする前に何よりも重要なことは「主力製品の満足度をとにかく高める」、つまり主力製品においてカスタマーサクセスがしっかりと実現できている状態であることです。
その上で、必要な適切なメニュー・商品の開発をしっかりと行い、組織としてクロスセルしやすい体制を整えることで、クロスセルによる売上アップに繋がりやすくなるでしょう。