ここ数年、カスタマーサクセスの重要性がさかんに叫ばれていますが、日本ではまだまだ組織内での影響力が小さい企業が多いのが実情です。
顧客に対応するだけの役割として他部署と従属関係になったり、収益への貢献を評価されないこともしばしば。しかし、そうした状況はSaaSの成長にとってはマイナスになります。
では、カスタマーサクセスが組織内で影響力を高め、重要な役割を担うためにはどうしたら良いのでしょうか?
なぜカスタマーサクセスが影響力を持つべきなのか?
そもそも、なぜカスタマーサクセスが組織内で影響力を持つべきなのでしょうか。
カスタマーサクセスはSaaSの収益性に直結する
最近ではSaaSはどの分野でも競争が激しく、顧客にとっては選択肢が豊富な状況。新たに顧客を獲得するのに必要なコストが大きくなっています。
つまり、既存顧客からの売上をどれだけ維持できるかが収益のキモになってきます。
そして、既存顧客と関係を築き、解約や契約更新、アップセル/クロスセルを生み出すカスタマーサクセスはそれに直結する重要な役割です。
本来は単なる一部署ではなく、組織全体のハブになって顧客目線を事業に取り入れるべき存在なのです。
影響力が小さいとどうなる?
本来は重要な位置を占めるべきカスタマーサクセスですが、単なる顧客対応と位置付けてしまうと、大きなデメリットが生まれます。
まず、他部署との従属関係やリソース不足から、積極的な支援が難しくなります。結果的に顧客体験の積み上げができず、既存顧客からの売上が減少。新規顧客獲得にコストをかけ続ける不健全な経営構造になり、成長が鈍化してしまいます。
また、製品に顧客目線が反映されづらくなり、プロダクト主導での価値提供が難しくなります。これも成長を鈍化させる要因になります。
もしもいま現在部署/チームが以下のような状況であれば、影響力を大きくするための取り組みが必要です。
- 他部署と従属関係になっている
- 社内での発信があまりできていない
- 指標/データが社内で共有されていない
- 人員/予算などのリソース不足が続いている
カスタマーサクセスが影響力を持つためにすべき5つのこと
では、実際にカスタマーサクセスが組織内での影響力を大きくするためには、何をすべきなのでしょうか。
①他部署と協力関係を築く
基本的な取り組みですが、まず意識したいのが他部署との連携です。
マーケティング、セールス、開発などを交えて定期的なMTGを開催し、相互にサポートする関係を作りましょう。
また、顧客目線の情報を共有するのも重要です。カスタマーサクセスは、もっとも深く顧客に関わり、理解できるポジションです。これまで社内で認識できていなかった顧客情報の発見につながり、新たな顧客体験や売上づくりのきっかけになります。
またこの際、カスタマーサクセスの視点から、部門を横断した全体のカスタマージャーニーを見直せば、各部署の業務に顧客目線を取り入れてレベルアップすることにもつながります。
こうした部署を超えた価値提供が、社内での影響力を高めるうえでは重要です。
②マネジメント層への訴求
「横」だけでなく「縦」のつながりも重要です。部署間の連携とは別に、経営層にもカスタマーサクセスの重要性をアピールしましょう。ここ数年で生まれた新たな職種ということもあり、経営層には経験者が少なく、まだ重要性を理解していない人が多いのです。
解約率や売上維持率の改善によって、どれくらいLTVが向上するのか、またカスタマーサクセスの支援によって製品の活用度合いや顧客のロイヤルティがどれだけ高まるのかなどを定期的に報告しましょう。
なお、Gainsightが経営層向け報告レポートのテンプレートを公開しているため、資料作りの際は参考にしてみると良いでしょう。
Making Customer Success Less “Squishy” - BOD Slide Template | Gainsight
③データを蓄積する
すでに解説したような組織内での情報発信を行ううえで、データは欠かせません。もしもデータの蓄積、分析体制が作れていないのなら、まずはそれを整えましょう。
- 解約率
- アップセル/クロスセル率
- NPS
- ヘルススコア/利用率
- オンボーディング完了率
など基本となる指標を定常的に分析できるように、データソース、ツール、運用体制などを整備します。
こうしたデータが集まれば、顧客体験の改善、活用促進の施策見直し、既存顧客向けのセールス戦略の見直しなど、経営全体の戦略に役立つヒントを得られます。
また、顧客の不満や要望などの定性的な情報も、製品の設計、営業やマーケティング施策に活かせます。
顧客支援という土台に加えて、全社に顧客を中心とした戦略を浸透させるハブになれれば、影響力が向上していくでしょう。
④顧客体験を向上する
カスタマーサクセスが影響力を増すためには、顧客体験を向上して、成果を出してもらうのがもっともシンプルかつ効果的な方法です。
オンボーディング→アダプション→エクスパンションと顧客体験の段階別に施策を作り込むのが効果的です。
例として、オンボーディングならトレーニングプログラムやチュートリアルの整備、アダプションはFAQ作成や定期的なデータ分析・レポーティング、エクスパンションは事例共有や機能・製品案内などが挙げられます。
また、リソースが不足しているチームなら、ツールを利用してテックタッチに取り組むのも効果的。FAQサイトやトレーニングサイトをオンラインで構築すれば、オンボーディングの効率はもちろん、定着率の向上にも役立ちます。
⑤イニシアチブをとる
具体的な取り組みとは異なりますが、カスタマーサクセスが顧客への価値提供のリーダーになることを心がけるのも重要です。
最近では、顧客は広告や宣伝ではなく、実際の利用体験や身近な口コミで製品を判断するようになっており、企業経営は顧客体験を起点にするやり方に変わってきています。
マーケティングや営業、製品開発など全ての部署が顧客目線を意識する必要があります。そして、そのイニシアチブを取れるのがカスタマーサクセスなのです。
海外では、カスタマーサクセスを管轄するCCO(チーフカスタマーオフィサー)が経営チームの中で存在感を増しており、今後カスタマーサクセスの重要度はさらに高まっていきそうです。現在組織内で重要な位置を与えられていないのなら、その席を取りに行く姿勢を持ち、積極的に顧客情報を発信していきましょう。
まとめ
カスタマーサクセスという役割は日本でも次第に浸透してきていますが、まだまだ企業内部での影響力は十分とは言えないのが実情。
しかし、SaaS企業が成長するうえで重要な既存顧客からの売上維持、ユーザーにとって価値のある製品づくりには、カスタマーサクセスの充実が欠かせません。
そのためには、社内への情報発信や連携、データの蓄積、顧客体験の向上などが役立ちます。
まずはチームや部署が社内できちんと立ち位置を確保できているかを振り返って、改善のための取り組みを進めていきましょう。