2023年春、アメリカ・シリコンバレー銀行の倒産が大きな騒ぎになったことは記憶に新しいと思います。
その後、際立った影響はありませんでしたが、2024年以降も何が起こるかはわかりません。
今後1〜2年は引き続き金融的に不安定な時期が続くとすれば、金融機関が投資や貸付を渋るような状況になるでしょうし、
そうなれば特にSaaS企業のカスタマーサクセスの「コスト構造」に大きく影響が出てきます。
特にSaaS各社の人件費を中心とした「コスト構造」を抜本的に変えていく必要があると考えており、
今回はこの「カスタマーサクセスのコスト」について知っておくべきことを、3つのポイントで解説します。
知っておくべきこと①:
カスタマーサクセスのノウハウは「景気が良い時」に開発されたものである
日本に「カスタマーサクセス」という施策が輸入され始めたのは、2010年代後半と言われています。
この時期、日本のSaaSベンチャーは非常に高いバリエーション(企業価値)で評価がされていた企業が多くありました。
投資家の間では「”PSR(Price to Sales Ratioの略、会社の価値を売り上げの倍率で評価する指標)”という指標を使い始めたら、バブルの始まり」と言ったりもしますが、
カスタマーサクセスが流行り始めた2010年代後半のPSRは、大体売上の20〜30倍近くのかなり高い状態が続いており、
「PSRで(PSRという指標を使って)資金調達する」というベンチャー企業も多くあった時代です。
そのため、2010年代後半〜2020年代前半(現在)に至るまで行われてきたカスタマーサクセスの施策やノウハウは、
基本的に「SaaS企業にお金が流れてきている・資金調達がしやすい」ことを前提に開発されてきたものです。
つまり、これまで行われたカスタマーサクセスの施策やノウハウは、
人件費を度外視して、特に「ハイタッチのカスタマーサクセス」を重視して投資をしてきた、という前提があるのです。
知っておくべきこと②:
直近、SaaS企業のバリエーションは大きく下がっている
2020年以降の新型コロナウイルスのコロナ禍や、2022年に勃発したウクライナ問題等、
世界情勢の大きな変化や金利の上昇等を要因として、
これまではまさに「バブル」とも言うべき状態になっていたSaaS企業のバリエーション(企業価値)は大きく下がっています。
ちなみに当社openpageもSaaS企業ですが、
当社の投資家からの評価については売上の倍率(PSR)ではなく、
「利益の倍率(PER:Price Earnings Ratio、株価収益率)」であったり、
「40%ルール(売上成長率だけではなく、売上成長率と営業利益率を足して”40%”に到達していれば健全である、とされる指標)」
等の指標で評価されるようになっています。
では、SaaS企業自体の評価の指標や方法が変わることで、カスタマーサクセスにどのような影響があるのでしょうか。
端的に言えば、ポイント①でお伝えした通り「資金調達しやすい環境で、ガンガンお金をかけてハイタッチでカスタマーサクセスの取り組みをする」という状況から、
「コストコントロールをしながら、利益が出る形でカスタマーサクセスを実現できる体制を作る」必要性が大きくなってきている、ということです。
言い換えれば、SaaS企業における「ハイタッチのカスタマーサクセスに携わる方の人件費」が、
会社経営上「重荷」になりつつある、という現状があると言えるでしょう。
知っておくべきこと③:
「ハイタッチCS」という構造を変えないとSaaS企業は潰れる!?
ハイタッチのカスタマーサクセスで「プラスの売上」をちゃんと産んでいる会社は少なく、
「(CSが)売上を産んでいない会社」の方が多い現状があります。
カスタマーサクセスでは、よく「顧客に継続的に契約いただく」ための取り組みであるとも言われますが、
「継続してもらうこと=維持」であり、プラスの売上にはなっていないため、
売上を産んでいないCSは、客観的に見れば単に「コスト」になってしまう側面があります。
売上を産めていない・顧客の維持しかできていない、という状態が続くと
経営的には「ただの維持コストだよね」と捉えられてしまうのです。
厳しい話ですが「利益率を改善するための構想を見せることができないSaaS企業には投資しません」といった投資家も徐々に増えてきています。
つまり、ハイタッチのカスタマーサクセス=高コストなカスタマーサクセスの取り組みだけでは、
SaaS企業としての利益率はなかなか上がらず、
利益が出ないために評価されず、バリエーションも上がらない、
という悪循環に陥り、最悪の場合倒産してしまう、という可能性もあります。
そのため、カスタマーサクセスの取り組みで顧客を維持する上では、
なるべくデジタルな案内、つまり「テックタッチ」に変えていく必要があるのです。
とはいえ、いきなりハイタッチのカスタマーサクセスを辞め、テックタッチに全振りするのは逆にリスクも大きいですので、
まずはハイタッチのカスタマーサクセスに投下しているコストのうち、
約10分の1のコストをテックタッチに投資することをおすすめしています。
徐々にテックタッチに投資する比率を上げていき、
将来的にカスタマーサクセスの取り組みをDX化して、
コスト構造を抜本的に変える動きをしなければ、SaaS企業は常に倒産リスクと向き合うことになりかねません。
苦しいお話もしましたが、SaaS企業では上述したような厳しい現実を受け入れつつ、カスタマーサクセスの体制構築を行っていかなければならない、
という現実に直面していることは間違いありません。
カスタマーサクセスのコスト構造を変えたい、
デジタルのカスタマーサクセス投資を頑張りたい、といった企業様がいらっしゃれば、
弊社openpageがお力になれる部分が多々あるかと思います。
まずはお気軽にお問合せいただければ幸いです。