カスタマーサクセスが知るべきPLG戦略とは?

  • 公開日:2022年7月23日(土)

近年、SaaS業界で注目されている「PLG戦略」

SaaS業界でカスタマーサクセスをやっている人の中には「聞いたことがあるけど具体的にどういう戦略だろう?」という人もいるでしょう。

この記事では「PLG戦略」について、基本的な内容から戦略を成功させるための秘訣、カスタマーサクセスが果たすべき役割について解説します。
今後ますますSaaSにおいて重要なキーワードとなるであろうPLG戦略について知識を深めましょう。

SaaS業界で注目のキーワード「PLG戦略」とは?

PLG戦略は事業戦略の一種

PLG戦略はProduct Led Growth(プロダクトレッドグロース)の略で、日本語では「プロダクト主導の成長戦略」という意味です。具体的にはあるプロダクトを利用したユーザーが新しいユーザーを呼び込む循環をつくり、サービス規模を拡大することです。アメリカのOpenview Partners(ベンチャーキャピタル)が定義し、呼ばれるようになりました。

PLG戦略を成功させるには、プロダクト設計や組織設計が深く関わります。そのため、単なる顧客獲得のマーケティング手法ではなく事業戦略の一種として考えられています。

PLG戦略の対比として、従来のセールス主導の成長戦略を「SLG=Sales Led Growth(セールスレッドグロース」と呼びます。

SLGとPLGはマーケティングファネルが異なる

PLG戦略を採用するサービスは、まずは無料でユーザーにサービス価値を体験してもらい、有料プランへの移行を促します。従来のSLGとPLGを比較すると、以下のようにマーケティングファネルが異なります。

SLG:マーケティング→セールス→サービス利用(有料版)

PLG:紹介→サービス利用(無料版)→サービス利用(有料版)

PLG戦略をとるサービスのユーザーは、既存ユーザー(同僚や友人)からの紹介を契機にサービスを使いはじめます。セールスを介さずに、いきなりサービスに接触することになるのが特徴です。

PLG戦略が適するサービスの特徴

PLG戦略が適するサービスにはいくつかの特徴があります。

Openview Partnersが提唱する8つの特徴から、重要と考えられる3点をご紹介します。

  • サービスが独自の価値を提供できていること
  • 有料版に移行する前にユーザーが価値を十分体感できること
  • サービスにネットワーク性があること

※ネットワーク性とは、サービスのユーザーが増えれば増えるほど、サービスの価値が上がる性質のことを指します。

逆に言うと、機能が複雑なサービスや利用がユーザー個人に閉じるサービスは、従来のSLG戦略の方が適しているといえます。

今では多くの人が使っているZoomやSlackなどもPLG戦略で急成長してきたサービスです。

PLG戦略がなぜSaaS業界で注目されている?

なぜSaaS業界でPLG戦略が注目されているのでしょうか?

経営効率、スケーラビリティ、財務実績の観点から解説します。

早く、効率的に顧客獲得~オンボードができる経営手法

PLG戦略では、ユーザーがサインアップすることで契約が完了し、プロダクト内でオンボーディングまで完結します。

営業プロセスがなくなれば、アポ取りや商談、決裁プロセスにかかる数ヶ月の期間を短縮できます。加えて、オンボーディングのためのカスタマーサクセスが不要となれば、ユーザーはすぐにサービスを利用できます。

労働集約的でなくスケールしやすい

PLG戦略は、ユーザー1人当たりにかかる営業コスト、マーケティングコスト、カスタマーサクセスコストが低くスケールしやすい特徴があります。

新規のユーザーは、既存ユーザーの招待を受け自発的にサービスを使い始めるため、事業者の手を借りることなく指数関数的に増えます。

主要なSaaS企業が採用し実績をあげている

Openview Parnersのレポートでは、PLG戦略を採用する会社の企業価値や利益が高いことが報告されています。具体的には、アメリカの一般的なSaaS企業と比較してPLG戦略を採用する企業は企業価値が2倍以上高くなっています。これは実際にPLG戦略が機能し、企業として市場で評価されている証拠といえます。

PLG戦略が成功するための3つのカギ

Openview Parnersが提唱する「PLG戦略を成功させるための3つのカギ」には、これからPLGを事業戦略におきたい経営者・開発者へのメッセージが詰まっています。

エンドユーザーのために設計すること

PLG戦略では、プロダクトは購買担当を経由するのではなく実際にサービスを使うエンドユーザーであることを忘れてはいけません。エンドユーザーの課題を解決し、サービスがもたらす価値を体験してもらい、エンドユーザーに成長のドライバーとなってもらうことが必要です。

顧客がお金を払う前に価値を体感してもらうこと

ユーザーがサインアップを完了した後なるべく早く、このサービスは役に立つ・使う価値があると思ってもらう必要があります。

従来はお金をもらった後に、サービスの価値を提供していました。PLG戦略では、ユーザーがサービスの無料部分を使う間に、課題解決を図り、アハ体験(あ!とひらめき、価値を理解すること)をしてもらう必要があります。

PLG戦略にそってプロダクト開発すること

労働集約的ではないPLG戦略にとって、プロダクト開発は事業の要です。

開発に際しては、PLG戦略の成功のための初期投資をすることが重要です。

  • ユーザー行動を分析できるようにする
  • ユーザーを呼び込む仕掛け、機能を作る
  • カスタマージャーニーに沿って、プロダクト改善する

PLGでは、ユーザーがサインアップした直後にはユーザー情報が全くないという特徴があります。プロダクト内で、データを収集&分析できる体制にすることが非常に重要になります。

カスタマーサクセスが果たすべき役割とは?

PLG戦略を採用するサービスでは、カスタマーサクセスの役割は従来にも増して重要です。この章では、従来のSLG戦略におけるカスタマーサクセスと比較して、PLG戦略におけるカスタマーサクセスの役割の違い、果たすべき役割について解説します。

SLGにおけるカスタマーサクセスをおさらい

SLG戦略のカスタマーサクセスは、ユーザーに良質な顧客体験を提供し事業を成功へと導くため、顧客のビジネスに伴走をする役割を果たします。セールスが獲得してきたユーザーに対して、オンボーディングからサービスを使いこなすまで対面・デジタルツールを用いてコミュニケーションを計ります。

SLGとPLGにおけるカスタマーサクセスの違い、果たすべき役割

PLGにおけるカスタマーサクセスは3つの点で従来のSLGと異なります。

・タイミング

 PLGではセールスリードがないため、ユーザーがサービスへサインアップしたタイミングからが対象領域です。通常、サインアップ状態では限られた情報しか得ることができません。カスタマーサクセスは、登録時の情報や利用状況のデータを頼りに、順調にオンボーディングできているか、サービスの価値を体感し有料ユーザーへと移行してもらえているかをチェックします。

・ターゲット

カスタマーサクセスのターゲットは、サインアップ直後の無料プランのユーザーの他、有料プランを使っているユーザーまでさまざまです。その中でも特に重要なのは、PQL(Product Qualified Lead=プロダクトが生み出したリード顧客)という、有料プランへ移行しやすいユーザー群を特定することです。彼らにいかにサービスの価値を伝え、有料プランに移行してもらうかが重要な役割です。また、時に無料プランの初期ユーザーを増やす施策に携わることもありマーケティング部門に近い役割を担うこともあります。

・アプローチ

顧客へのアプローチはテックタッチから始まります。オンライン上でサインアップしたユーザーに対し、プロダクト内でオンボーディングが完結できているかをチェックし、必要に応じて顧客の課題解決を計ります。一方で、PQLの顧客や大型顧客には、セールスと連携しハイタッチのアプローチを取ることもあります。

SLGとPLGにおけるカスタマーサクセスの共通点

SLGとPLGにおけるカスタマーサクセスは、以下のような共通点もあります。

  • 目的は、良質な顧客体験の提供と顧客の事業の成功
  • カスタマージャーニーを定義し、プロセスに応じたアクションを設計すること

PLGでは、顔の見えない相手に対してデータ分析をもとにアクションを設計します。セールスがグリップを握っていないこともあり、無料プランで満足をしてもらえなければユーザーは簡単に離れてしまいます。その点、カスタマーサクセスが顧客の声を代弁し、プロダクト設計やマーケティングに反映することが従来に増して重要です。

PLG戦略においてもカスタマーサクセスは重要

本記事では、PLG戦略がSaaSビジネスの新しい事業戦略として注目されていることを解説しました。すでにアメリカでは多くのSaaSサービスがPLG戦略を採用し急成長を遂げており、今後日本でも同様の傾向が見られる可能性があります。

PLG戦略でのカスタマーサクセスの役割は、従来のSLGと比較してセールスやマーケティングとの垣根が曖昧です。しかしながら、いずれの戦略のおいても、カスタマーサクセスは顧客がサービスを利用し事業を成功に導くために重要な役割を果たしていることは間違いありません。

Topics: カスタマーサクセス

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