顧客の成功を実現するうえで、カスタマーサクセスが注意すべきリスクのひとつに期待値ギャップが挙げられます。営業段階でプロダクトの機能や支援について顧客に過度な期待を抱かせてしまい、いざ運用フェーズに入ってからカスタマーサクセスが個別対応でカバーせざるをえなくなるというのはよくあるケース。最悪の場合、顧客が「思っていたのと違った」と感じてモチベーション自体を失い、解約に繋がりかねません。
では、こうした期待値ギャップが発生するのを防ぎ、むしろ顧客の期待を超えるためにカスタマーサクセスができることとはいったい何でしょうか。
期待値ギャップによってどんな問題が起こるのか
はじめに、期待値ギャップについて詳しく見てみましょう。ギャップの発生によって起こる問題にはどんなものがあるでしょうか。
問題①運用フェーズでのカスタマーサクセスの負担増加
ひとつめに、運用フェーズにおいてカスタマーサクセスの負担が大きくなってしまうという問題が挙げられます。
営業段階では導入の進め方やサポート、活用支援についても説明を行いますが、ここで実態以上の内容を口約束してしまっている場合、それに合わせてカスタマーサクセスがカバーせざるをえなくなります。
初期設定やユーザーデータの登録、システムとの連携など、本来支援のパッケージに含まれない作業によってリソースを浪費してしまいます。
問題②モチベーション低下・解約リスクの増大
ふたつ目に、顧客のモチベーション低下と解約リスクの増大が挙げられます。主に機能面で事前のイメージとのズレが発生することで、「〇〇ができると思っていたのに」と顧客が活用への意欲を失ってしまいます。
これは機能そのものだけでなく、ブランド全体への信頼を損なうことにも繋がり、最悪の場合、解約リスクを生む結果になります。
期待値ギャップの重大さとは
こうした問題が発生する顧客が数社であれば、個別に対応してカバーすることも可能でしょう。しかしながら、多くの場合、期待値ギャップが発生する根本には構造的な原因があるため、大半の顧客にそのリスクがあるのです。1%の解約率が収益に大きな影響を及ぼすSaaSのビジネスモデルにとって、これは致命的なリスクと言えるでしょう。
こうした問題を避けるためには、期待値ギャップが発生してしまう根本的な原因を理解し、それを解決しなければなりません。
次章で期待値ギャップの生まれてしまう原因を、その次に、それを解決するための取り組みについて解説していきます。
期待値ギャップが生まれてしまう原因
次に、期待値にギャップが生まれてしまう原因について具体的に解説します。これを理解することで、対策についてもイメージしやすくなるはずです。
マーケティング・営業段階でのイメージのズレ
期待値ギャップが生まれてしまう最大の原因は、やはりマーケティング・営業段階で伝える内容とカスタマーサクセス業務の実態とがズレてしまうことにあります。例として以下のような内容が挙げられます。
・プロダクトの機能のメリットのみを伝えていて、実際に必要なデータやシステムの連携、具体的な作業や運用方法について説明できていない。
・売上/営業効率〇〇%UPなど、成果のみを伝えていて、そのための導入・活用のプロセスを説明できていない。
・ユーザー登録、初期設定などの作業について、負担するのがユーザー側かサービス側かを明確にできていない。
さらに言えば、こうしたマーケティング・営業が行われてしまうことにも原因が存在します。CPAやROIをはじめとした獲得効率を重視するあまり、本来の目的である「自社サービスを通じて顧客が成功する」という真の目的から遠ざかってしまうのです。
また、新規顧客の獲得というKPIを過剰に追ってしまうあまり、実態よりも盛った説明をしてしまったり、本来は顧客が作業すべきところも代行しますと約束したりしてしまうなど、オーバーコミットの状態で受注してしまうケースもあるようです。
その結果、顧客に対してメリットばかりを提示し、デメリットや負担を含めた説明ができずに、期待値ギャップが生まれてしまうというわけです。
プロダクトの機能・役割が十分でない
運用フェーズで顧客の期待値を下回ってしまう原因がプロダクトの内容にあるというケースも存在します。
プロダクトの機能に加えて、それを運用するために必要な補助的な機能や活用のための支援などを含んだ包括的なサービスの捉え方を「ホールプロダクト」と表現しますが、この各機能が揃っていないと、顧客がうまくサービスを活用できないこともあります。
例えば、データ分析ツールを利用する場合に、ダッシュボードやレポートでデータを可視化するというコア機能に対して、データベースとの連携、視覚的な操作、エクスポートと言った補助的な機能が十分でなければ、効果的な活用は難しくなってしまいます。
また、実際の機能面以外に、カスタマーサポートやカスタマーサクセスによる支援が十分でないといったケースもここに当てはまります。カスタマーサクセスの目線で言えば、まずは自分たちの行う支援に焦点を当てるべきでしょう。
カスタマーサクセスが顧客の期待値を超えるためにすべきこと
ここからは、ギャップの発生を防ぎ、顧客の期待を超えるためにカスタマーサクセスがとるべきアクションについて解説します。
マーケティング・営業との情報共有
もっとも重要なのは、マーケティング・営業とカスタマーサクセスが顧客の情報をできる限り共有することです。
SFA、MA、CRMなどのツールで管理された顧客情報の確認に加えて、営業担当者が持っているより詳細な顧客情報(契約に至ったプロセス、提案の内容、担当者・関係者の情報)を共有することで、顧客の期待値や要望を理解しましょう。これによって、運用フェーズ開始時の顧客と支援側の認識のズレを防ぎ、スムーズな活用に繋がります。
また、カスタマーサクセスから働きかけてマーケティング・営業のプロセスに変化を加えることができればより効果的です。
商談の資料に対してカスタマーサクセス目線でアドバイスを行えば期待値を事前にコントロールできますし、営業向けのミーティング等で説明を行うのも良いでしょう。
理想的な顧客のペルソナをあらかじめ想定しておき、営業・マーケティングと共有しておくことができれば、見込みLTVが大きい顧客の獲得にも繋がります。
マーケティングや営業はどうしても効率を重視したプロセスで動きがちですが、見込みLTVから逆算した顧客獲得という視点をカスタマーサクセスが持ち込むことで、期待値ギャップのリスクは大きく抑えられるでしょう。
具体的で達成可能な目標・ロードマップの設定
運用フェーズに入ってからも、顧客の要望や期待値はアップデートされていきます。これをうまくコントロールして成功に導くのはカスタマーサクセスの役割です。
具体的には、キックオフ段階で顧客とカスタマーサクセスの間で設定する目標とそのためのロードマップ、さらには各ポイントにおけるアクションの策定について、達成可能な内容で顧客に提案を行い、合意する必要があります。
内容についても、可能な限り具体化することが重要です。目標は数値レベルまで落とし込んだ上で期間を明確にする、ロードマップは資料として可視化して共有する、各プロセスにはKPIを設定するなど、顧客のイメージがひとり歩きしないように注意しましょう。
顧客との密なコミュニケーション
上記とも関わりますが、初期段階で期待値の調整がうまくいっていても、次第にズレが生じてしまうケースは多く見られます。
特に、ある程度運用が定着している顧客は一見問題がなさそうで、支援をやや手薄にしがちですが、実は不満や課題を隠し持っていることも。ハイタッチ支援を行う顧客であれば、定期的な連絡はもちろん、顧客の課題感や不満を直接のヒアリングによってうまく引き出すことも重要です。
また、運用の中で顧客がサービスに対して新たな期待を持つこともあります。別部署への展開や新しい活用方法などがこれに当てはまるでしょう。こうした期待に応えることができれば、ロイヤルティの向上を実現できるため、積極的に支援しましょう。
まとめ
カスタマーサクセスが顧客の成功を実現するうえで、期待値に注意を払うことは重要なポイントです。マーケティング・営業の段階での期待値と運用フェーズでギャップが生まれてしまうと、スムーズに成功に伴走することは難しくなってしまいます。
そうしたギャップを防ぐためには、カスタマーサクセスがマーケティング・営業と情報交換し、必要に応じてプロセスそのもの変化を加えることが必要です。
また、運用フェーズに入ってからも、顧客の要望や期待値を常に把握し、それに適切に応えることができれば、むしろ期待を超える支援が可能になるでしょう。