カスタマーサクセスに携わる方であれば、ハイタッチ、ロータッチ、テックタッチという言葉を一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。
限られたリソースで多くの顧客の成功に伴走するには、顧客の分類や優先順位づけ、それぞれの状態に適した支援が必要になってきます。その方法を概念としてまとめたのが、ハイタッチ、ロータッチ、テックタッチと呼ばれるタッチモデルの考え方なのです。
今回は、カスタマーサクセスにおけるハイタッチ、ロータッチ、テックタッチそれぞれの内容や役割、具体的な分類方法まで、詳しく解説します。
ハイタッチ、ロータッチ、テックタッチとは?
まずは、ハイタッチ、ロータッチ、テックタッチからなるタッチモデルの基本的な概念について見ていきましょう。
そもそもハイタッチ・ロータッチ・テックタッチはどんなもの?
ハイタッチ、ロータッチ、テックタッチからなるタッチモデルは、カスタマーサクセスにおいて、顧客の重要性とそれに合わせた支援方法を分類、管理するための考え方です。
上図のように、顧客を分類する際には、LTV(顧客生涯価値)という指標を用いるのが一般的です。ある顧客との関係において得られる価値の総量を表し、カスタマーサクセスにとってはもっとも重要な指標のひとつと言えるでしょう。
これによって顧客を分類した上で、各セグメントに対してハイタッチ、ロータッチ、テックタッチと特徴の異なる支援を提供していきます。
ハイタッチ
タッチモデルにおいて、大きなLTVを見込める顧客に対する支援をハイタッチと呼びます。支援の内容としては、対面を中心に、以下のようなものが挙げられます。
・専任担当者のアサイン
・個別説明会の開催
・ロードマップ、KPI等の設定
・定期的な訪問
手厚い支援で成功するまで密接に寄り添うスタイルと言えるでしょう。
ハイタッチについては以下の記事でより詳しく解説していますので、合わせてご覧ください。
参考記事:カスタマーサクセスの第一歩!ハイタッチの役割や手法を解説
ロータッチ
ハイタッチほどではないが、大きなLTVが見込める顧客に対して行われるのがロータッチでの支援です。
顧客へのアプローチは、オンラインや複数同時で行われるのが一般的で、ハイタッチとテックタッチの複合的な支援とも言えます。
・セミナー、ウェビナーの開催
・メール、チャットでのフォロー
・ユーザーコミュニティの設置
ロータッチについては以下の記事でより詳しく解説していますので、合わせてご覧ください。
参考記事:カスタマーサクセスのロータッチを効果的に推進するために必要な考え方とは?
テックタッチ
個別対応や人の手による作業をツールによって代替し、効率的に支援できるのがテックタッチです。多くの顧客に対して均一な内容をすばやく提供できます。
・システムを用いたコンテンツの配信
・チュートリアル、トレーニングプログラムの提供
・自動対応の活用
テックタッチについては以下の記事でより詳しく解説していますので、合わせてご覧ください。
参考記事:効率的なカスタマーサクセスにはテックタッチが重要!役割や手法も解説
なぜ顧客の分類が必要なのか
タッチモデルの基本的な考え方と内容について理解したところで、なぜ顧客を分類して支援を使い分ける必要があるのかということについて詳しく考えてみましょう。
限られたリソースで全体をカバーする必要がある
カスタマーサクセスにとって、もっとも重要なのは顧客の成功です。そのために、全ての顧客に手厚い支援を行い、成功するまで伴走することができれば良いのですが、実際には限られたリソースでそういった支援を実現するのは困難です。
参照:カスタマーサクセスの青本を要約する~原則⑤ロイヤルティ構築に、もう個人間の関係はいらない|藤島 誓也 | カスタマーサクセス × ベンチャー|note
上図は、企業が抱える顧客の内訳として、LTVが高い顧客から低い顧客、それぞれのボリュームを表したものです。一般的に、注力すべき重要な顧客は数としては少なく、反対に重要度のそれほど高くない顧客は多くなります。
そこで、顧客を分類し、大きな価値を見込める重要顧客に対しては手厚い支援を行い、それ以外の顧客に対しては、仕組みやツールを活用して拡張性のある支援を行う、というタッチモデルの考え方が必要になるというわけです。
また、こうしたタッチモデルでの顧客管理は、組織や事業規模が大きくなればなるほど重要なポイントになってきます。
なぜLTVで分類するのか?見込みLTVについて
実際にタッチモデルによって顧客を分類する際に欠かせないポイントが、LTVです。
顧客の成功やロイヤルティの反映であるLTVは、カスタマーサクセスの成果を端的に判断できる指標であり、その総量を最大化することがひとつのゴールと言っても過言ではありません。タッチモデルの考え方もそれに沿ったものと言えます。
一方で、将来的な価値も含むLTVは、現時点での顧客の価値だけでは測りきれません。カスタマーサクセスの支援の質によって、長期的に大きく変化するものなのです。
ここで考えたいのが、予測に基づいたLTVの値、見込みLTVです。
現在自社にとって大きな価値を持っていない顧客でも、適切な支援をすれば将来的に大きな利益をもたらすかもしれないという場合もあれば、その逆もあるでしょう。
現在の顧客との関係性や契約内容といった要素から、顧客が潜在的にもたらす価値、見込みLTVを正確に見積もり、それを引き出すために適切な支援を行うことが、タッチモデルをより活かすためには重要です。
見込みLTVの具体的な判断軸
見込みLTVを正確に予測するためには、以下のようなポイントをもとに複合的に判断する必要があります。
- 契約金額、期間
契約金額や期間は、LTVに直接的に関わる指標です。当然、金額の大きな顧客、契約の長い顧客は大きなLTVを見込め、反対の場合はそれほど大きな価値は見込めないでしょう。
- 企業、組織の規模
顧客の組織規模も、LTVを判断する上では見落とせません。大きな組織であればその分ユーザー数の増加や複数部署への展開と言った潜在的な利益向上の可能性があります。
- ロイヤルティ
現時点での顧客のロイヤルティは、LTVを予測する上で重要な基準です。ロイヤルティや顧客の積極性が高ければ、それだけ解約の見込みは小さく、アップセルやクロスセルの確率も高いと言えます。
どのポイントを重視すべきかは、サービスの特性や事業フェーズ、状況などによっても異なりますから、まずは自社にあった判断軸を慎重に見定めましょう。
ハイタッチ、ロータッチ、テックタッチをうまく使い分けるには
ここからは、ハイタッチ、ロータッチ、テックタッチを具体的にどう使い分けていくべきかを解説します。
まずはハイタッチの徹底を
サービスの立ち上げ期や、顧客がまだ少ない段階であれば、ロータッチやテックタッチはそれほど重視せず、まずはそれぞれの顧客に対してハイタッチでの手厚い支援を提供し、定着を図るべきでしょう。
ハイタッチ支援でのノウハウを蓄積していくうちに、だんだんと支援の共通部分や効率化の余地が見えてくるはずですから、その段階で、ツールによって自動化できる部分はないか、1:nでの同時支援に置き換えられる部分はないかといった検討を進めていきましょう。
そうすることで、より多くの顧客を抱えた際に、スムーズに支援の使い分けができるようになるはずです。
顧客体験を意識しよう
ハイタッチ、ロータッチ、テックタッチの使い分けを考える際には、必ず顧客体験について意識しましょう。
顧客がサービスを利用する上で、人が行わなければ効果が出にくい支援、人でなくでも問題ない支援が存在します。
- サービスの思想を伝える
- サービスを利用して何を実現したいかを決める
- 成功までの道筋を定める
といった、形式化が難しい領域もあれば、反対に
- 操作説明
- トレーニング
- 情報のインプット
など、ツールや同時支援でも十分に効果の出るものもあります。
重要なのは、顧客がサービスを理解し、操作に慣れ、成果を出すという一連のプロセスの中で、人が担うべき部分とそうでない部分を明確にし、顧客体験を損なわない役割分担を行うということです。
そうした役割分担が適切にできていれば、効率化を実現しながら、余ったリソースは人の手によって行うべき重要な支援に注力するという理想的なバランスのカスタマーサクセスを実現できるでしょう。
まとめ
ここまで、カスタマーサクセスにおけるハイタッチ、ロータッチ、テックタッチのタッチモデルについて解説しました。
より多くの顧客の成功に伴走するというカスタマーサクセスの目標のためには、顧客を正確に分類し、それぞれに適した支援を提供することが不可欠です。
また、支援の使い分けや効率化に関しては、顧客体験を重視し、人の手による支援とツールや自動化による支援を適切に分担することが重要です。
この機会に、まずは自社が現在抱えている顧客と行っている支援について、一度整理して振り返ってみることをおすすめします。