SaaS企業にとって重要なKPIと言えば、売上、NPS、解約率などさまざまな指標が挙げられますが、そのなかでも、売上継続率を表すNRRという指標は、ネガティブチャーンと並んで、顧客のエンゲージメントの高さ、それによる事業の成長性を判断するうえで有用です。
カスタマーサクセスが知っておくべきその他のKPIやネガティブチャーンについてはこちらの記事でも解説しています。
【参考記事】
・カスタマーサクセスのKPIにはどんなものがある?フェーズごとに重要な指標も解説
では、NRRはどのように計算され、改善のためにはどんなことが必要なのでしょうか?
NRRとは?
まずはNRRという指標がどんなものかを見ていきましょう。
NRRとは何か
NRR(売上継続率)とは、既存顧客から得られる収益が、月や年など、一定期間でどのくらい維持できているかを示す指標です。
顧客がサービスに感じている価値の変化を端的に表すことができるほか、短期的な収益の予測にも用いることができます。
NRRの計算方法
NRRは以下のような計算式によって求められます。(ここでは月単位で計算)
NRR=(総MRR+拡大MRR–解約・ダウングレードMRR)/ 総MRR
※MRR=月ごとの経常収益
MRRについて詳しく知りたい方はこちら記事もあわせてご覧ください
【参考記事】SaaSの基本となる指標 MRRとは?
例えば、あるサービスが顧客を10社抱えていて、平均の売上が10,000円だとします。今月3社がアップグレードし、売上が合計15,000円増えました。一方で、1社解約が出てしまい、売上が10,000円減少しました。
この場合のNRRは、以下のようになります。
NRR=(10×10,000+15,000-10,000)/10×10,000=105%
つまり、このサービスは今月105%の割合で売上を維持できており、このペースを続ければ来月は約110%の売上となるだろうと予測できるのです。
NRRがなぜSaaSにとって重要なのか
NRRがなぜSaaSにとって重要なのかをもう少し詳しく考えてみましょう。
既存顧客との関係の判断基準になる
NRRは既存顧客からの売上から算出されるため、顧客との関係性がどれくらい良好なものか、ひいてはカスタマーサクセスがうまくいっているかを判断する基準になります。
数値が100%を安定して超えている状態であれば、エンゲージメントの高い顧客が多く、不満を持った顧客が少ないことを示します。
反対に常に100%を切るような状態であれば、顧客への支援が十分でない可能性を疑うべきでしょう。カスタマーサクセスを中心に顧客体験を見直す必要があるかもしれません。
収益性への影響が大きい
NRRは収益性に大きな影響を与えることも注目すべきポイントです。
100%以上を保てば既存顧客だけで解約による減収を補え、新規顧客獲得に必要以上にコストをかける必要がなくなり、成長速度の向上が見込めます。事実、SaaS企業においてNRR数値と収益性の間に相関があるとした調査も見られます。
また、こうした収益面での健全性は、投資家が企業の成長性を判断するうえでも重要なポイントになるため、スタートアップ企業は特に意識する必要があります。
NRR改善のためのポイント
SaaSの成長を占うNRR、どのように数値を向上させていけば良いのでしょうか。
解約・ダウングレードを減らす
NRRの数値を構成する要素のうち、最優先で取り組むべきは解約の防止です。解約が少なければ、新規獲得にコストをかけずにNRRを高い水準を保てます。
解約を防止するために必要なことはいくつかありますが、もっとも重要なのは原因の特定です。
- NPS
- ヘルススコア
- オンボーディング完了率
といった各指標の数値と解約との間に相関性があるかどうかを調査し、プロダクト/支援の問題点を把握しましょう。
アップセル/クロスセルを増やす
NRRを構成するもうひとつの要素が既存顧客からの収益拡大です。これを実現できれば、収益性に+αが期待できます。達成のためのポイントとしては以下のような内容が挙げられます。
・アカウントの追加
→オンボーディングや教育コンテンツの充実、プロダクトの改修などで顧客のエンゲージメントを高める。
・バージョン/プランのアップグレード
→顧客の規模にあわせた段階的な価格プランを導入するほか、アカウント数の拡大やアクション数などと関連づけた誘導を行う。
・機能の拡張
→顧客へのヒアリングやアンケートから体験価値を引き上げられる領域を分析し、拡張機能としてプランに追加する。
まとめ
SaaSにとって重要なKPIはいくつもありますが、なかでも収益性を測るうえで役立つのがNRRです。
既存顧客との関係のバロメーターにもなり、常に100%以上を維持できれば新規契約に頼ることなく収益をあげる健全な経営につながります。
数値を改善するためには、解約の防止とアップセル/クロスセルの増加がカギになります。具体的には、NPSやヘルススコアを用いた解約原因の特定と改善、支援の充実やプランの工夫などが役に立つでしょう。