【SaaSの重要KPI】ネガティブチャーンとは?実現のために必要なこと

  • 公開日:2022年4月23日(土)

SaaS企業にとって重要なKPIとはなんでしょうか?売上、NPS、解約率……さまざまな指標が挙げられます。

カスタマーサクセスのKPIに関してはこちらの記事でも解説しています。

【参考記事】カスタマーサクセスのKPIにはどんなものがある?フェーズごとに重要な指標も解説

なかでも、SaaSの成長性を予測する重要な指標が収益ベースでのチャーンレートです。

特に、この数値がマイナスになった「ネガティブチャーン」の状態は、事業の飛躍的な成長を示唆し、SaaS企業が目指すべきひとつのマイルストーンであると言えます。

では、ネガティブチャーンを実現するためにはどのような考え方や取り組みが必要なのでしょうか?

ネガティブチャーンとは?

はじめに、ネガティブチャーンがどのようなものかを確認しましょう。

収益ベースのチャーンレート

ネガティブチャーンを知るには、まず収益ベースのチャーンレートについて理解する必要があります。

収益ベースのチャーンレート(ネットレベニューチャーンレート)とは、解約や拡大がどれくらい起きたかを顧客の「数」ではなく「売上」で捉える考え方。これをもとに、既存顧客からの売上をどの程度維持できているかを知ることが可能です。

収益ベースでのチャーンレートは、以下のような数式によって計算できます。

(解約・ダウングレードMRRー拡大MRR)/総MRR

※MRR=月ごとの経常収益 

ネガティブチャーンはどんな状態?

上の式で求められた収益ベースのチャーンレートがマイナスの数値になる場合を、特にネガティブチャーンと呼びます。

仮の数値を当てはめて計算してみましょう。全体で100社の顧客がいて、それぞれ平均で10,000円の収益があるとします。先月2社が解約・ダウングレードし、収益が20,000円減ってしまいました。一方で、既存顧客5社に5,000円分のアップセルが成功しました。

この場合、収益ベースのチャーンレートは、

(20,000-5×5,000)/100×10,000=-0.5%

とマイナスの数値になるため、ネガティブチャーンの状態になります。

全体のMRRは常にプラスの数値になるため、ネガティブチャーンを達成するためには、かならず解約顧客のMRRを既存顧客の拡大MRRが上回っている必要があることが分かります。

ネガティブチャーンはなぜ重要なのか?

それにしても、なぜネガティブチャーンが重要なのでしょうか?

ネガティブチャーンは事業の成長を加速する

SaaSが事業を拡大していくためには、当然収益を増やす必要があります。つまり、顧客の解約やダウングレードが発生した場合には、その分を他の収益でカバーしなければなりません。

新規顧客の獲得によってカバーする場合、その分セールスコストがかさみ、規模が拡大するにつれてその負担はさらに大きくなっていきます。

対して、既存顧客の拡大でカバーする場合(ネガティブチャーンの状態)には、コストをそれほどかけずに収益を維持したうえで、さらに新規獲得によるプラスも期待できます。

ネガティブチャーンを実現した状態を中長期的に維持できれば、健全な成長が期待できるのです。

ネガティブチャーンを維持するとMRRはどれくらい向上する?

参考までに、ネガティブチャーンを維持する場合とそうでない場合の売上の変化を比べてみましょう。MRRにはどのくらいの差が生まれるのでしょうか?

どちらも毎月10,000円分の新規契約を獲得し、一方は2%のMRRが解約されるかわりに拡大MRRが4%(チャーンレート-2%)、もう一方は4%が解約し拡大が2%(チャーンレート2%)のサービスがあったとします。

5年間(60ヵ月)が経過する頃には、以下のグラフのように、両者のMRRには約3倍もの差が生まれます。

ネガティブチャーンに近づくことがいかにSaaSの成長を占うかが分かります。

ネガティブチャーン

ネガティブチャーンを達成するために必要なこと

SaaSにとって理想的とも言えるネガティブチャーン、達成するためにはどのようなことが必要なのでしょうか。

解約・ダウングレードを減らす

ネガティブチャーンを達成するためには、収益ベースでのチャーンレートを改善する必要があります。数値を構成する要素のうち、最優先で取り組むべきは解約です。失う収益が少ないほど、他の顧客によってカバーすべき額が少なくなります。

解約を防止するために必要なことはいくつかありますが、もっとも重要なのは原因の特定です。

  • NPS
  • ヘルススコア
  • オンボーディング完了率

といった各指標の数値と解約との間に相関性があるかどうかを調査し、プロダクト/支援の問題点を把握しましょう。

アップセル/クロスセルを増やす

収益ベースのチャーンレートを構成するもうひとつの要素が既存顧客からの収益拡大です。達成のためのポイントとしてはそれぞれ以下のような内容が挙げられます。

・アカウントの追加

→オンボーディングや教育コンテンツの充実、プロダクトの改修などで顧客のエンゲージメントを高める。

・バージョン/プランのアップグレード

→顧客の規模にあわせた段階的な価格プランを導入するほか、アカウント数の拡大やアクション数などとひもづけた誘導を行う。

・機能の拡張

→顧客へのヒアリングやアンケートから体験価値を引き上げられる領域を分析し、拡張機能としてプランに追加する。

ネガティブチャーンはあくまで目標に

こうした取り組みを行うことで、収益ベースのチャーンレートは向上していきます。一方で、いきなりネガティブチャーンを達成できるかと言えば、かなり難しいでしょう。

また、一度ネガティブチャーンを達成しても、それを維持するのはさらに難しいものです。実際にほとんどのSaaS企業では達成できていません。

ネガティブチャーンはあくまで目標と捉えて、解約を防ぎ、既存顧客との関係をより良いものにしていくことを重視して支援を行っていきましょう。

まとめ

SaaS企業にとって重要な目標と言えるネガティブチャーンは、達成することができれば事業の大きな成長が期待できます。

そのためには、解約の防止と既存顧客からの収益拡大が必要。解約原因の特定、アップセル/クロスセルを促す価格プランの設定やプロダクトの充実などがポイントになってきます。

一方で、ほとんどの企業にとってはネガティブチャーンを実現するのは難しいということも理解する必要があります。数値にとらわれすぎず、顧客との関係を良好に保つことを重視して支援を行っていくことが重要です。

Topics: カスタマーサクセス, KPI

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