ユーザーにサービスを継続的に利用してもらうには、オンボーディング(初期導入)のプロセスが非常に重要です。
使い方はもちろん、サービスの価値や有用性を初期の段階で実感してもらえなければ、解約のリスクは大きくなってしまうでしょう。
今回は、カスタマーサクセスにおいてオンボーディングがいかに重要か、また、将来的な顧客ロイヤルティやLTVの向上に繋がる適切なオンボーディングのプロセスやポイントについて解説します。
オンボーディングがカスタマーサクセスにとって重要な理由
SaaSやサブスクリプション型のサービスを提供する企業にとって、オンボーディングでスタートダッシュを切れるかどうかは、顧客のその後の利用率や満足度、長期的にはLTVを大きく左右する重要なポイントとなります。
まずは、オンボーディングとその重要性について解説します。
そもそもオンボーディングとは?
そもそも、オンボーディングとはいったい何でしょうか。
本来は、「船や飛行機に乗っている(on-boarding)」という言葉で、組織に新たに入ってきたメンバーに対する知識や技術の訓練といった意味合いをもちます。
SaaS型のサービスにとっては、サービスを新たに利用する顧客に対するサポートや順応のプロセス、具体的には
- サービスの価値を理解してもらう
- サービスを使う目的を明確にしてもらう
- サービスの操作に慣れてもらう
といった内容を実現するためのプロセスと考えれば良いでしょう。
オンボーディングがうまくいかなければ解約リスクが上昇する
SaaS型のサービスをはじめ、あらゆるビジネスにおいて顧客の定着率は売り上げや収益に直結するポイントです。
オンボーディングの段階でサービスの価値を理解してもらい、利用上の不明点を取り除いておくことは非常に重要で、これができなければ、定着どころかむしろ早期解約のリスクが高まってしまいます。
オンボーディング失敗→利用率・満足度低下→解約リスク上昇
といった負の連鎖を生まないためにも、オンボーディング段階での丁寧なサポートは必要不可欠なのです。
解約リスクを低減するためには、プロダクトの改善やコンタクト頻度をあげるといった施策に注力しがちですが、オンボーディングの伴走強化も決して忘れてはいけません。
オンボーディングにおけるポイントとプロセス
オンボーディングがカスタマーサクセスにおいて重要であることがわかったところで、その具体的なプロセスやポイントをみていきましょう。
ハイタッチ/ロータッチ/テックタッチによる分類
オンボーディングを含め、カスタマーサクセスにおいては、顧客の規模、重要性に応じて、ハイタッチ/ロータッチ/テックタッチとアプローチを使い分けるのが一般的です。
上図のように、ハイタッチのような1:1の手厚い支援をすれば、顧客の体験価値は向上し、以後の定着も期待できますが、一方で、そのような支援をどの顧客にも提供するというのはリソースや業務効率の面からみても難しいでしょう。
ロータッチの手法も取り入れ、セミナーやツールを利用した1:nの一斉支援などと組み合わせて、顧客の状況に応じた支援を提供することが重要です。
オンボーディングにおいても同様の考え方で支援方法を策定していきましょう。
適切なオンボーディングのプロセス
次に、オンボーディングにおける適切なプロセスについて考えていきましょう。
①必要十分な機能を事前にセットアップ、情報のインプット
顧客が迷いなくサービスを使い始められるよう、事前の設定やコンテンツのセットアップはもれなく済ませておきます。
また、マニュアルや必要な情報も事前に共有しておくことで、顧客の記憶の定着を補助することができ、キックオフミーティングでの理解度向上や利用開始後のトラブル防止にもつながります。
②オンボーディング期におけるゴールやKPIを設定
カスタマーサクセスにとって、顧客がサービスを通じてどんな状態を目指すのか、または顧客の成功の定義を明確にするのはもっとも重要なポイントと言えます。
導入時のキックオフミーティングでは、ただの操作説明に止まらず、長期的な目標に加えて、オンボーディングにおけるゴールも必ず定義しましょう。
また、ゴール(目標)から逆算して、必要なプロセスの設計・修正や、達成度合を定量的に把握するためのKPIの設定も行います。
③サービスを使い始めてもらう、フォローアップ
キックオフミーティングを終え、顧客がサービスを使い始める段階です。サポートサイトの案内や、導入説明会の実施など、適切なフォローをしながら使ってもらうことで、よりスムーズに理解してもらえるでしょう。
また、サービスの利用が始まったあとも、ログイン状況や主要機能が使われているかどうかを可視化できる仕組みを構築し、定期的に顧客の状況を確認しましょう。事前に設定したKPIに応じて、顧客がサービスを問題なく使えているかをチェックし、状態がよくない場合には必要に応じてフォローアップします。
この段階では、顧客も不慣れなサービスを使っている状態なので、不安や不満を抱きやすいフェーズです。サービス利用初期のこの状態を放置してしまうと、継続的な利用を諦めてしまったり、ログインすらしない状態になってしまったりします。利用初期のタイミングはとくに重点的に支援を行いましょう。
④目標やKPIは達成されているかを確認
オンボーディング期の終盤では、はじめに設定したゴールが達成されたかどうかを振り返ります。達成できていない場合には、顧客がどの段階でつまずいてしまったかを詳細に把握しておきましょう。
オンボーディングの効果をさらに高めるためにできること
オンボーディングの効果をさらに高め、効率化するためのポイントを紹介します。
プロダクトの改善
ビジネス規模が拡大して、顧客の数が増えれば、全ての顧客に手厚いハイタッチ支援を提供するのは難しくなります。
長期的には顧客自身がセルフサービスで課題解決できる環境を作っていくことが必要となり、その手段の一つとしてプロダクトの改善があげられます。
操作がわかりやすく、十分に使いやすいプロダクトであれば、顧客は自律的に運用を行えます。プロダクトを改善していくことは、機能やUIの充実だけにとどまらず、サポートの簡略化や、オンボーディングプロセスの効率化、定着率の向上にもつながります。オンボーディングや運用サポートを実施する中で、顧客からプロダクトの改善点を吸い上げ、開発部門やマネジメント部門へフィードバックすることが重要です。
テックタッチの活用
プロダクトの改善とともに、ツールの活用によってプロセスの自動化を実現していくことも、オンボーディングの効率化には重要です。
- 操作マニュアルや活用事例など、カスタマーサクセス担当者が顧客に対して個別にインプットしていた内容をサポートサイトから自動配信
- チュートリアルをプロダクト自体に実装、あるいは動画コンテンツとしていつでも閲覧できる状態にしておく
- KPIの可視化、分析等をツールによって自動化
などを実施することで定型業務が効率化され、カスタマーサクセスが顧客に向き合う時間を確保できるようになります。また、ツールによる自動化や効率化を進めることで、カスタマーサクセス業務が標準化され、より多くの顧客にベストプラクティスとして横展開することも可能になります。
オンボーディングの精度を高め、効率化することで、ロイヤルティや重要度の高い顧客に対するハイタッチな支援や、顧客満足度を高める新たな施策の立案など、より付加価値の高い業務にリソースを振り分けることが可能になるのです。
まとめ
今回は、SaaS型サービスにおけるオンボーディングと、そのプロセスやポイントについて解説しました。解約率やLTVを左右するオンボーディングは、カスタマーサクセスにとって重要な仕事のひとつです。
サービスの内容、自社および顧客の事業規模などによって、適切なオンボーディングはそれぞれに異なりますが、顧客の成功を定義し、そこから逆算してプロセスを設計し、プロダクトの機能やUI/UX改善していくことができれば、利用率や定着率、顧客満足度は向上していくことでしょう。