SaaSの主要KPIのなかに、MRRとよく似たARRという指標があります。MRRは頻繁に用いられますが、ARRもまたSaaSやサブスクリプション型ビジネスモデルの収益に直結する重要な指標です。
では、ARRとMRRにはどのような違いがあり、それぞれどのように使い分ければ良いのでしょうか。また、ARRの数値を改善していくにはどのようなことが必要なのでしょうか。
カスタマーサクセスにおけるその他のKPIや、MRRに関してはそれぞれの記事で詳しく解説しています。
【参考記事】
・カスタマーサクセスのKPIにはどんなものがある?フェーズごとに重要な指標も解説
ARRとはどのような指標か?
まずはARRという指標がどのようなものかを確認しましょう。
ARRとは?
ARRは「Annual Recurring Revenue(年次経常収益)」を表す言葉で、年ごとに決まって発生する売上を指します。基本的に、初期費用やスポットでの追加費用などは含まず、常に発生する売上のみが対象です。
よく似た指標であるMRR(月次経常収益)が月ごとの売上を表すのに対して、ARRは年ごととより長い期間での状況を表すための指標です。
ARRの計算方法
ARRの計算方法はわかりやすく、MRRを12倍するだけです。
ARR=MRR×12
例えば先月のMRRが10,000円だとしたら、ARRは1200,000円ということになります。
ここで注意すべき点は、ARRは基本的には予測に用いる指標であるということです。現時点でのMRRをもとに年間の収益を見通すものであり、MRRの変化によってARRの数値も常に変化します。
そのため、より正確に売上を予測するために、MRRを四半期ごとに平滑化したうえでARRを算出している企業も多く見られます。
ARRの重要性 MRRとの違い
ARRはなぜ重要なのでしょうか。また、MRRとの違いはどこにあるのでしょうか。
SaaSの収益性の判断基準となる
ARRは、MRRと同様にSaaS企業の収益性を判断する基準になります。
SaaSの大半が採用するサブスクリプションビジネスでは、顧客から毎月発生する売上が収益の中心となり、ARRやMRRはそれに直結する指標になります。
ARRやMRRを毎月追跡してその傾向を把握することで、ビジネスの健全性や事業全体のパフォーマンスの評価が可能になり、また将来的な収益の予測にも役立ちます。
MRRとの使い分けは?
ARRとMRRはよく似た指標ですが、どのように使い分ければ良いのでしょうか。
ARRとMRRの違いは対象とする期間。ARRは1年とより長い期間を扱うことから、長期的な計画の検証やビジネスのロードマップを評価するのに役立ちます。
それに対して、MRRは短期的な変化を分析するのに向いており、ひとつひとつの支援や機能改善といった施策の効果を測定するのに向いています。
また、顧客との契約が月単位あるいは1年未満のものが多い場合にはMRR、年単位の場合にはARRがより適しているというように、ビジネスモデルによってもどちらを重視すべきかは異なります。
ARRを改善するための考え方
ARRはMRRをもとに計算されるため、MRRを改善する取り組みがそのまま役立ちます。
新規顧客の獲得を増やす
新規顧客の獲得のためには、リード獲得数を向上するためのマーケティング施策、獲得した有望なリードへのアプローチやクロージングといったセールスのパフォーマンス向上が役立ちます。
これに対して、カスタマーサクセスは活用事例、ポジティブなVOCといったリアリティのある内容を共有して貢献できます。
アップセル・クロスセルを行う顧客を増やす
アップセル・クロスセルの増加には、学習コンテンツの充実や手厚い支援、機能改善によるエンゲージメント向上のほか、人数、活用度に合わせた段階的な料金プランの導入などが効果的です。
解約を行う顧客を減らす
解約防止のためにもっとも重要になるのが原因の特定です。NPS、ヘルススコア、オンボーディング完了率といった各指標の数値との間に相関性があるかどうかを調査し、プロダクト自体や支援の問題点を把握しましょう。
解約を行った顧客、リスクのある顧客に対してヒアリングを行うことができればより効果的です。
ダウングレードを行う顧客を減らす
ダウングレードを行う顧客の多くは活用に問題を抱えているため、オンボーディングや初期段階での支援を徹底して先回りしましょう。
また、アップセル・クロスセル獲得の施策と同様、活用フェーズでは学習コンテンツや機能の充実などをてこにエンゲージメントを高めることも重要です。
まとめ
MRRとともにSaaSの基本的な指標のひとつに挙げられるARR。MRRをもとに計算され、年間を通じての収益の予測に用いられます。
SaaSのサブスクリプション型のビジネスモデルの収益性の評価、長期的な計画やビジネスのロードマップの検証などに役立ちます。
MRR改善と同様の取り組みで数値を向上することができ、新規顧客獲得とアップセル・クロスセルの増加、ダウングレードと解約の減少が鍵になります。