SaaS企業、そしてカスタマーサクセスを取り巻くトレンドは刻々と変化しています。
今回は、日本で上場しているSaaSベンダーのIRや海外SaaSベンダーの事例を通じ、
各社がどのような事業展開をしているか、
それに合わせてカスタマーサクセスはどうあるべきか、というテーマで、
カスタマーサクセスのトレンドを解説します。
Chatworkの「BPaaS」戦略から学ぶ、「CSとお客様との関わり方の変化」に関するトレンドとは
チャットツールの大手であるChatWork社が、2023年2月の戦略発表会で「BPaaS」という概念を発表しました。
BPaaSは「Business Process as a Service」の略ですが、
ビジネスプロセス=業務プロセスそのものを提供する、という形態です。
ガートナー社というアメリカの調査会社が定義した用語であり、「クラウド上で一部業務をアウトソースする」という概念です。
先述したChatwork社の戦略発表会ではこの「BPaaS」が特に強調されていました。
Chatworkというツールのメインユーザーは中小企業様が多くいらっしゃいますが、
中小企業のユーザーの中には、カスタマーサクセスをしようと思っても「なかなか触ってもらえない」というお客様も一定数いらっしゃいます。
従来のカスタマーサクセスでは、お客様を「サクセス」に導くために、
「お客様自らがその製品やツールに触ってもらえる」ことを前提に取り組んでいるケースがほとんどです。
ChatWork社も同じように取り組みをしてきたと思うのですが、
Chatworkのように広く浸透したサービスをさらに拡大していく、となると、
「お客様にツールを触ってもらう」ための施策や取り組みも拡大していかなければならない、という発想に至っていらっしゃるのでは、と推察しています。
Chatwork社の発表からもわかる通り、
カスタマーサクセスの次のトレンドの1つは「カスタマーサクセスBPO」になるのではないかと思っており、その象徴とも言える動きになっているのでは、と考えていますし、
SaaSそのものがキャズムを超え、広く様々なお客様に受け入れられるようになってきたことの表れではないでしょうか。
カスタマーサクセス自体も、こうしたSaaS全体のトレンドを踏まえて見直しを図らないといけない、という面があるところに、
「カスタマーサクセスのトレンド性」を垣間見た気がしています。
Appier社の「マルチプロダクト戦略」から学ぶ、CSの理想形とは
Appier社は、デジタルマーケティングツールのベンダーです。
台湾の企業なので日本では知らない方も多いかもしれませんが、
Appier社は17カ国に進出しているグローバルAIベンチャーであり、
ハーバード大学・スタンフォード大学等、世界的にも有名な大学出身のAI研究者等も多く抱えています。
Appier社の素晴らしい点は「ビジネスモデル」にあります。
具体的には、プロダクトポートフォリオ、
つまり「自社でどんな組み合わせで・どんな製品を扱うか」が、ロジカルで明瞭なのです。
Appierの製品は、マーケティング系の分析ツール(広告配信システム、AIによる顧客予測、逆分析ツール等)が中心ですが、各製品は領域を被る(カニバる)ことがありません。
つまり、「マーケターであれば使いたい!」と思うような、近接した領域のサービスを横並びで開発しているのです。
これによって、例えばユーザーがAppier社のツールをまず1つ使い始めるとすると、
「チャットツールはどうですか」「AIの予測機能もありますよ」というように、
「マーケターであれば使いたい機能」をどんどん提案していける。
カスタマーサクセスの観点で言うと、「売上継続率」を非常に高めやすいですし、
実際にAppier社の売上継続率の水準は非常に高いと言われています。
Appier社のツールをあるいち領域でも契約できれば、
他の製品はその顧客(既存顧客)に拡販すればいいため新規開拓の必要もありませんし、
新規の顧客獲得コストを下げ、その分既存顧客向けのカスタマーサクセスに注力できます。
Appier社のように、新規顧客ではなく既存顧客から売上を上げていけるビジネスモデルこそ、
「SaaSのカスタマーサクセス経営の理想型」であり、
「カスタマーサクセスの価値が最大化されるモデル」であると言えるでしょう。
実は、日本のSaaSベンダーも、このAppier社の戦略に近づいているのです。
例えばFreeeは、会計システムからスタートし、
労務・人事等のサービスもありますし、法人向けのクレジットカードサービスも提供しています。
他にもマネーフォワード社、ビズリーチ社、LayerX社など、
日本を代表するSaaS企業では、複数〜数十のサービスを展開されているケースも多いため、
お客様がある”いち領域”のサービスを導入すると、他領域のサービスにもどんどん広げていけるのです。
マルチプロダクト化の流れに、カスタマーサクセスはどう対応すべきか?
ただ、このように複数のサービスを同時に抱えている状況だと、
「カスタマーサクセスをどのような体制でやるべきか」ということを考える必要があります。
そもそも1つのサービスのカスタマーサクセスを考えるだけでも大変ですが、
それが10〜20個という数のサービスのカスタマーサクセスを同時に考える、
となると”ぞっと”する方もいらっしゃるのではないでしょうか。
とはいえ、お客様の立場だと「なるべく1人の担当者から案内して欲しい」と思うのが自然です。
だからこそ、SaaSベンダーはカスタマーサクセスの担当者の製品学習をはじめとした育成への投資が必要です。
さらに、もともとカスタマーサクセスは「契約継続をしていただくための製品活用の支援」がメインでしたが、
マルチプロダクト化に伴い、自社の複数製品の専門性までも求められるようになっています。
会社によっては「ポストセールス」的なプロセスまでやりきることを求められるケースもあります。
カスタマーサクセスに求められる役割は増え続けており、キャパシティも限界を迎えつつある、というケースも多くあると思いますので、
eラーニングなども有効活用しながら、製品知識やお客様の業界知識のキャッチアップを継続してやっていく必要があります。
「複数製品のカスタマーサクセス体制をどうすべきか」は、まさに現状のカスタマーサクセスのトレンドとも言うべきテーマであり、
今後各社がどのように取り組んでいくのか、ぜひ皆さんにも注目いただきたいポイントです。