BtoBのセールスプロセスについて調べていたのですが、国内のものはどこか表面的な記事が多く、実務的な内容が少ないと感じてしまい、openpageなりの考えをまとめてみました。
BtoBのセールスサイクル、セールスプロセスの平均期間は?
まず、考えを整理するにあたっては、BtoBセールスプロセスに関する期間のデータを紹介します。
これはヨーロッパのCRMツールSuperOfficeが出した、BtoBのセールスサイクルの期間です。
赤色は新規顧客、青色は既存顧客で整理され、セールスプロセスを終わらせるまでに何ヶ月の期間がかかっているかをグラフ化しています。
新規営業で最も多いセールスプロセス期間は4〜6ヶ月
データを見ると新規顧客のセールスにおいて最も多いのは4〜6ヶ月であることがわかります。
また、図の左に目を向けると、1ヶ月で営業商談が終わることはほぼないんだなと判明します。一方、右に目を向ければ、1年以上もかかるときも全然あるんだな、と理解できます。
セールスプロセスの理解に必要な顧客目線
こんなに期間がかかるの?と思う人も多いでしょう。しかし、そう思ってしまうのは顧客目線が欠如しています。
BtoBのセールスプロセスを考えるうえでは、単純に整理されたビジネスファネルだけ眺めていても理解が及びません。
顧客の企画担当者になった目線も持ちながら、セールスプロセスに向き合ってみると、これだけ期間がかかる理由も明らかになります。
B2B SaaS企業向けVCより、セールスプロセスを学ぶ
セールスプロセスを話し合うのに良い図があります。GTMfundという、日本で言うところのAll star saas fund、B2B SaaS企業向けのVCがあります。
そのVCの記事で、outreachというセールスエンゲージメント最大手ベンダーのマックス・アルトシュラーさん(セールスの書籍を出したり、セールスハッカーというメディアもやっている方です)が、8つのセールスプロセスの図をブログの中で紹介しました。
本記事では、この図を活用しつつ、実際の解説はほぼ私のオリジナルで進めます。
BtoBのセールスプロセスは、営業ではなく製品開発から始まる
上から順番に見ていきましょう。準備、プロスペクト、リサーチから始まっています。
これは私の体験談、SaaSベンダーであるopenpageを経営していてわかったことも語ります。
BtoB取引における営業のスタートとは「顧客理解」と「プロダクト開発」から始まります。
顧客ニーズ、競合環境、潜在的な顧客数、顧客の具体的なプロファイルの特定…これらが整理されたうえで、製品開発をします。
いきなり営業しようは悪手になります。
製品開発が市場期待に追いついてなければ営業は始めらないーこれが、営業のプロフェッショナルが見落とす罠です。
製品力を無視してなんでも売れるセールスは詐欺師で迷惑
なんでも売れるセールスなんていませんし、いたとしたら詐欺師で迷惑です。
競争優位があり、対象顧客やニーズが明確で、顧客の期待価値を叶えられる製品機能とサービスレベルに達しており、十分な数の顧客に売り込むことの出来る製品がないとセールスはするべきではありません。
なぜなら「弱い製品」では顧客の課題を解決出来ないからです。
セールスは顧客に課題解決や企業成長を約束するわけですが、そもそもその能力のないプロダクトである限り、売れません。仮に売ったとしても過剰広告、全然成果につながらずクレームになります。だから「なんでも売るセールス」は詐欺師で迷惑なわけです。
セールスプロセスを始める前段階のプロダクト開発期間
BtoB取引においては、この顧客の期待を満たす製品作りの期間だけでも数年はかかります。
弊社openpageはカスタマーサクセス/デジタルセールスルームとして2019年末〜2020年頭から開発されていますが、やはり3年ほど開発期間をかけないと、顧客ニーズを満たす=セールス可能な製品に育てるのは難しいです。
もちろん、いつまでも、セールス前のフェーズだけで留まるわけにはいきませんので、実態としては売りながら製品改善を続けていくことになるでしょう。
一般的なセールスプロセスはサラッとし過ぎている
魅力的な製品があるといううえで、次のフェーズは、アプローチ、プレゼン、オブジェクションハンドリング(反論対策)、クロージングと進みます。
図であげた、セールスプロセス4〜6ヶ月とは一般的にはこの部分を指すでしょう。
そして、このセールスプロセスは、よく見るブログや図ではかなりサラッと解説されるのですが、実際の営業活動には、この部分こそ、ロマンやロジック、知恵や努力が重ねられます。
ですので、セールスプロセスにおいても、この部分に特に焦点をあてて重めに解説します。
セールスプロセスにおいて、アプローチとプレゼンは明確に違う。顧客は初回接点だけでは動かせない。
まず、整理しなければならないのは、営業においてはアプローチとプレゼンは明確に違うということです。
営業におけるアプローチのフェーズとは、顧客にとっては初回の接点となります。
そして、BtoBビジネスの場合は、初回の時点で契約が決まることはほとんどありません。
先のデータでも見せた通り、1ヶ月以内で商談が終わっている確率は5%という非常に小さな確率です。
それは何故かと言えば、新しい取引をしようと会社を動かすには、たかが60分のプレゼンを1回聞いたくらいでは弱いからです。
BtoB取引では大きなお金が動くため、セールスプロセスが長期化する
BtoB取引の場合、年間で数百万、数千万、場合によっては億単位のお金が動きます。
このような金額帯の場合、営業の話を聞いて、よしじゃあ明日から契約して数百万出そうとはなりません。
複数回の交渉のうえ、営業の提案に納得し、費用対効果に合理性を感じられて、それを会社内に承諾を得られ、必要の手続きを踏んでから購入するのです。
この合理的かの判断や、社内承諾のための関係者への説明というのは、1〜2ヶ月で終わるものではありません。データにあるように、半年〜1年はかかるものなのです。
セールスプロセスにおけるアプローチは顧客からの信頼獲得の期間
アプローチの段階ではいきなり提案なんかできないはすです。なぜなら、相手の顧客の状況をほとんど知らないからです。
まずは仮説をぶつけながら、顧客の課題点や注力領域、自社への興味や期待、これまでの取り組み、今期の動きなど、さまざまな角度で顧客の状況を伺って、顧客の像をハッキリさせる。
そのプロセスがあって、はじめてプレゼンテーションが出来ます。
アプローチとは、そのプレゼンの機会をいただくまでの情報収集と信頼獲得の期間なのです。
セールスプロセスにおけるプレゼンで取引のハードルを越えられるか厳しく判断される
そして、プレゼンテーションにおいては、顧客のニーズ、期待、投資したい領域、成長戦略などを考えると、自社が最も優れたパートナーであると提案が求められます。
この会社はパートナーにしていきたいという顧客の判断は厳しく、甘くありません。多くの営業はこの心理的・合理的バーを超えられません。
だいたいの悪い営業は、自社の製品説明に終始し、顧客目線がほぼ話されないままに商談が終了します。
顧客も馬鹿ではないので、自社のことを考えた提案か、テンプレ的に喋ってるだけの営業かは一発でわかります。
テンプレ営業は、発注意思がもともとある、製品力が相当に強いというシーン以外において失注するでしょう。
セールスプロセスはテンプレ営業では前に進まない
テンプレ営業には熱がこもりません。製品資料の読み上げだけなので、極論、動画やLPでいいです。
自社の製品を順次立てて説明するなんて、それこそAIで出来ます。
営業担当という「人」が介在する価値は、顧客の状況の十二分に理解した上で、顧客が動き出すに値するだけの熟慮された提案を人でつむぎ出して実施することにあります。
BtoB取引においては顧客を動かす熱意とロジックが鍵であり、AIじゃなく人が営業する意味になります。
セールスプロセスを前に進めるロジックはまだAIでは作れない
顧客の企業課題や成長戦略に合わせた営業提案は、AIで行うことはまだ出来ません。私は実際にChatGPTを用いた営業提案ロジックの構築を色々試したのですが、現状は人のほうが絶対精度が高いです。
なぜなら、営業担当が数年かけて培った製品知識と専門性、そして目の前の顧客と複数回にわたり議論して集めたインナー情報、これを繋ぎ合わせて顧客に最適な提案をするということはAIにとっては具体度合いが高すぎてうまく整理や生成が出来ません。
ChatGPTが現状得意とするのはオープンとさされる公的情報からの提案生成か、入力された情報の編集や要約に過ぎず、実は法人営業で求められるレベルの提案には及んでおりません。
セールスプロセスの「プレゼンテーション」はもう古い?
少し話が脱線しましたが、セールスプロセスの話に戻ります。セールスプロセスでは、アプローチの次にプレゼンテーションという図解がありました。
しかし、よく考えてみたのですが、プレゼンテーションというのは今の時代、少し適切ではない気がします。
プレゼンテーションとは、提示するということが言葉の由来になっています。
ただし、BtoB取引においては、契約後の取引工程(カスタマーサクセス)が発生します。
BtoC取引においては、プレゼン後にそれを購入してすぐ消費と満足を感じられるのですが、BtoB取引においては購入して取引の成果を感じるのは遅れてやってきます。
その取引後の工程の失敗は、取引自体の失敗を指しており、一方的に営業が提案して、顧客がそれを受け取るのみ、という関係は健全ではありません。
セールスプロセスの後を考えるなら、一方的なプレゼンテーションではなく、同じ方向を向いて成約したい
取引後のことを考えるなら「顧客も一緒に乗り気になる」ような表現が適切です。プレゼンテーションと言うと一方通行な印象が否めません。
BtoB取引においては、取引のスタートとは、仕事の取り組みを一緒にやろうという話です。
ですので、営業が一方的にプレゼンして話が決まるというよりは、目線としては双方で同じ方向を向いていて、一緒にやっていこうと共に決意するような着地が望ましいです。
セールスプロセスはshall we〜で進める
例えば、初回含むこれまでの接点で、御社の課題や期待、成長戦略など諸々伺っているとして、自社はこんなところで貢献出来るので、同じ方向を向いて一緒にやっていきませんか?という口調がいいでしょう。
英語でいうと、よくない営業は、shold be〜(するべきだ)と一方的。良い営業は、shall we〜(一緒にやりませんか?)と双方向です。
shold be〜(するべきだ)とshall we〜(一緒にやりませんか?)、どちらが契約締結後に上手くいきやすいかで言うと、確実に後者です。前者は顧客の思考を奪い、後者は顧客の思考を強固にします。
セールスプロセスは担当者同意で合意しても成約に至れない
初めて接点を持ってから、対話の中で顧客を理解し、双方で進められそうな方向性を考え、こうしていきませんか?と提案して合意する。顧客は合意のもとで社内の関係各社を説得して、然るべきプロセスで申請し、契約を締結する。
法人同士でこれらのセールスプロセスを進めるには、確かに半年前後といった期間がかかるのは当然でしょう。
セールス活動において盲点になりやすいのは、双方の担当者同士で「良いですね〜」と盛り上がっても、会社の取引というのは成約しないことです。
会社で一定金額の予算を動かすには、お金を投下するために必要となる関係各社への説明が求められます。
これは稟議書のようなドキュメントで説明することもあれば、上司や社長にMTGの場で口頭で許諾をとるようなこともあるでしょう。
セールスプロセスを止める反論を防ぐオブジェクション・ハンドリング
図の中では、プレゼンテーションの次のセールスプロセスとして、オブジェクション・ハンドリングという日本ではまだ聞きなれない表現が載っています。こちらは、要はセールス活動における反論への対策です。
そもそも、この会社と新しく取引したいと、何も準備なしに新企画として社内に持っていけば、だいたいはコテンパンにされるものです。
セールスプロセスにnoを言う偉い人がいる
私自身の経験として、自分が購買側に立った時に、社内に説明していくうえで、社内向けの提案書作りの徹底や、事前の根回しも済ませたうえでの会議内での提案であっても、語気の強い反論は出たことはありました。
しかも、結構な偉い人からの反論やnoが来たりするのです。私の会社経験から振り返っても、あまり良く理解してなくても、準備が足りなさそうな話なのでとりあえずnoと言っておくような偉い人はたくさんいます。
セールスプロセスは、顧客が社内のnoを浴びる過程で日和って萎えていく
営業側に立つと意外に経験したことがなく見えない観点として、そもそも、会社の企画というのは通りにくいものです。
これまでやった事のないことをしようと社内に提案しますので、なんで?今やるべき?効果あるの?事例は?と無数にnoを言う理由があるわけです。
しかも、そのnoの反対理由も説得力があったりします。だいたい、この反論やnoの連呼で、顧客は日和ってくるわけです。
営業の商談ではやりましょうと盛り上がっていても、社内で偉い人にnoを言われるうちに、まぁいいかと気持ちが萎えていきます。
顧客は取引を決められなくても元の仕事に戻ればいいだけ
これも盲点になりがちですが、だいたいの人は、新しい取引をしなくても、既存の仕事が通常通りあるのです。
自分があげた企画が通らず、今回の取引が決まらなくても、元の仕事に戻ればいいだけなので、偉い人が語気を荒げてnoと言うなら、もういいやと投げ出したくなるものです。
その結果として、営業のメールを無視したり、商談で当たり障りのない表現をしてフェードアウトしたりするというわけです。
バイヤーイネーブルメントで顧客にロジックを授け、セールスプロセスを止めない
だから営業としては、そうならないように顧客にゴリゴリのロジックを授けなければならなりません。米国ではバイヤーイネーブルメントと言われる営業の思考法です。
顧客が社内で何を言われても完璧に反論し切れるよう、ロジックや考え方、ナレッジを徹底的にインストールするのです。
顧客が偉い人にnoと言われても取引の申請をやり切るだけのガチガチに強いロジックを授けるのです。
バイヤーイネーブルメントによって顧客は偉い人の反論も乗り越えられる
そもそも、顧客の社内で反論している人も、それらしく反論してるとは言え、そのテーマについて真剣に毎日考えているわけでもなかったりします。よく聞いてみると、実は反論のロジックはそこまで強くないこともあるのです。
それより、たとえ役職がその人より下だったとしても、2〜3ヶ月営業とゴリゴリに話し合っていて、なぜやるべきか、やったらどうなるか、どんなメリットがあるかのロジックが完全に決まっており、この話なら何時間でも話せるといった状態なら、反論が来ても対策出来るようになります。
バイヤー(お客様の購買担当者)をイネーブルメント(能力向上)させることで、セールスプロセスの障害となるnoを乗り越えてクロージングを決めるのです。
バイヤーイネーブルメントをやり切るならセールスプロセスはやはり時間がかかる
このバイヤーイネーブルメントがバキバキに決まっている状態まで取引を醸成するまでに、やはり相応の時間がかかることが整理できます。
改めて BtoBのセールスプロセスは短期勝負ではないことがわかります。
法人営業は営業担当だけでなく顧客の担当者も社内に説得し切るプロセスが必ず必要であり、営業担当の営業力をつけるだけでなく、顧客の社内営業力をエンパワーメントも必要です。
バイヤーイネーブルメントに関してはopenpageの別の記事でもノウハウや進め方を解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。
セールスプロセスのクロージング直近
アプローチ、プレゼン、オブジェクションハンドリングが終わって、ここでようやく、クロージングやフォローアップのフェーズになります。
クロージングにあたっては、契約条件、セキュリティ、見積もり、決裁プロセスなどを考慮し、要領よく進めます。ここまで来ると一安心ですが、気は抜けません。
取引が大規模になるほど、契約クローズするまでの手続きが大変になり、他部門の判断で取引がクローズしてしまう可能性もあります。
また慣れない書面の対応で思いのほかセールスプロセスの期間が伸びてしまうこともあります。
openpageでは、NDAは当然として、ベンダーの新規取引書面や、口座開設書、覚書など、通常の契約書とは異なる書面を交わす機会もありました。慣れない手続きを双方進めるうえで、いつまでに誰が何をするか、手際よく双方で管理して進める必要があります。
セールスプロセスにおけるカスタマーサクセス
営業プロセスはこれで終了ですが、BtoBの場合は必ずカスタマーサクセスの工程がその後に待っています。
顧客にも一定の協力をお願いしながら、一緒に仕事を進めていく必要があります。
カスタマーサクセス工程に関しては私の書籍である「実践カスタマーサクセス(日経BP)」に詳細の解説をしており、ぜひこちらも併読ください。
セールスプロセス全体をデジタル化するデジタルセールスルーム(DSR)製品「openpage」のご紹介
宣伝ですが、弊社openpageは、これまで解説したセールスプロセスのすべてをデジタル化可能です。
顧客の初回のアプローチで顧客にヒアリングし、顧客の課題や状況を踏まえて提案するということをお客様専用の営業用ページでまとめてデジタル体験として配布します。
openpageの強みはバイヤーイネーブルメントの機能で、顧客が社内の反論に耐えられるよう、お客様個別にカスタマイズされたロジックの共有や、クロージングを進めていくまでのタスク設計が一元で管理できます。
営業担当の提案内容だけでなく、顧客の動きまでもデータ化するため、セールスサイクルのあらゆるデータを精緻に取得できます。
すでに大手企業の導入が次々と進んでおり、問い合わせ殺到につき弊社の対応が追いついていない状況です。
ご興味がある方はお気軽にopenpage宛にお問い合わせください。