顧客の行動や感情を理解し、それにもとづいて最適な施策を打つことは、SaaSはもちろんあらゆるビジネスにおいて重要です。
そして、そうした顧客体験やアクションの整理に役立つのが「カスタマージャーニー」の作成。主にマーケティング分野で用いられるやり方ですが、カスタマーサクセスでも作っておいて損はありません。
この記事では、カスタマーサクセスのジャーニーがいったいどんなものなのか、なぜ重要なのか、そして具体的な作成のステップまでくわしく解説します。
カスタマージャーニーとは?
まずは、カスタマージャーニーがどんなものかを理解しておきましょう。
カスタマージャーニーという言葉は、その名の通り、顧客がサービスを利用するうえで経験する旅、つまり一連の「感情」や「行動」を表します。
これを時系列で見える化し、さらにそれぞれのポイントでどんな情報をインプットするか、どんな施策を打つかを整理するのがカスタマージャーニーの作成です。
ジャーニーで顧客体験を整理できれば、施策の精度向上、無駄なプロセスの削減などを実現できます。
マーケティング分野で購買までのプロセスを管理するのに用いられることが多いですが、顧客と深く関わるカスタマーサクセス分野でも効果を発揮します。
カスタマーサクセスがジャーニーを作成する3つのメリット
では、カスタマーサクセスがジャーニーを作成することには、いったいどんなメリットがあるのでしょうか?
メリット①:顧客理解⇒支援の質向上につながる
カスタマージャーニーは、製品を利用して目標を達成するまでのプロセスを「顧客目線」で整理したもの。行動や感情を目に見える形でまとめることで、顧客理解を深めるのに役立ちます。
そして、顧客の行動や感情が理解できれば、それを起点にどんな施策を打つか、どんな情報をどのチャネルでインプットするか……と設計していくことができ、顧客にとって本当に価値のある支援につながっていきます。
メリット②:支援の「型化」につながる
ジャーニーの整理は、カスタマーサクセスが支援の型を作り、バラつきを抑えるのにも役立ちます。
施策を打つタイミングやその内容(インプットする情報、チャネル、担当部署/チーム)を誰でも分かるようにできるため、担当者にかかわらず再現性のある支援が可能になります。
個々のスキルに依存した支援は組織の規模が拡大すると無理が出てくるものですから、早い段階で整理しはじめると良いでしょう。
メリット③:他部署との連携に役立つ
カスタマーサクセスの支援において、他部署との連携は欠かせません。
セールスとの受け渡し、運用中のカスタマーサポートとのやりとり、開発へのフィードバックなど、さまざまなコミュニケーションが発生します。
ただ、この際にベースになる考え方が共有されていないと、すれ違いや無駄が生じることもあります。
あらかじめジャーニーを整理して顧客目線を共有しておけば、そうした無駄を省き、共通認識にもとづいてスムーズに連携できます。
カスタマーサクセスのジャーニーはどんな内容?
次に、ジャーニーの内容について具体的に見ていきましょう。カスタマーサクセスの顧客体験は大きく3つのフェーズに分けられ、これをベースに整理していくことになります。
オンボーディング
顧客が製品に初めて触れ、使いはじめる段階です。
このフェーズが成功するかどうかが製品への印象を大きく左右し、将来的なLTVにまで影響を及ぼすため、特に注意深い支援が必要とされます。
カスタマーサクセスは、操作方法のレクチャーはもちろん、利用の目的と方向性、スケジュールなども整理し、顧客がスタートダッシュを切れるように手助けします。
アダプション
製品の利用に慣れ、使いこなしていく段階です。
顧客が製品を利用するうえで障害となる機能や操作に関する不安を打ち消していきます。最終的には、顧客自身で運用を行っていける「ひとり立ち」の状態を目指します。
カスタマーサクセスは、コミュニケーションやトレーニング、ヘルプコンテンツの提供などを実施して顧客をフォローします。
エクスパンション
顧客に価値を感じてもらい、利用を拡大する段階です。
製品を利用して当初の目的を達成したり、明確な成果を得られたら、顧客に対してアップグレードや別製品などを提案していきます。
カスタマーサクセスは、セールスと連携しながら拡大につながる提案や情報のインプットなどを行います。また、開発を巻き込んで顧客体験の拡張や向上を目指した製品設計をすることも重要です。
ジャーニーの完成イメージ
こうしたカスタマーサクセス特有の顧客体験とそれに対するアクションを、以下のようにより視覚的に整理してジャーニーを作成していきます。
必要に応じて担当チーム/担当者、インプットする情報、分析するデータなど、さらに情報を付け加えます。
カスタマーサクセスのジャーニーの作り方【5ステップで解説】
内容のイメージがつかめたところで、実際にジャーニーを作成するための具体的なステップを紹介します。参考にして作ってみましょう。
ステップ①:ペルソナを作成する
まずは、支援を行う顧客の姿を明確にしましょう。会社の業種や規模、導入の目的などの属性をもとにペルソナ(顧客像)を作成し、それをもとにジャーニーを設計していきます。
顧客の属性が幅広い場合は、複数のペルソナを作成してそれぞれに対してジャーニーを設計していくと良いでしょう。
ステップ②:ゴールとマイルストーンを設定する
顧客のペルソナが明確になったら、その顧客が製品利用を通じてどんなゴールを目指しているかを想定します。
一般的なものとしては収益の向上が挙げられますが、製品の性質や顧客の業種によって採用成功率、解約率など、特有の指標を設定することもあります。
また、設定したゴールから逆算して、それぞれのフェーズで達成すべきマイルストーンも明確にしておきましょう。
ステップ③:必要な情報の設計
ジャーニーの横軸が明確になったら、縦軸にどういった要素を設定するかも決めましょう。
顧客の状態(行動や感情)とそれに対する施策については必須として、タッチポイント、担当チーム/担当者、インプットする情報とチャネル、分析するデータなどから重要なものをピックアップしていきます。
はじめは重要な内容にしぼってシンプルに運用しはじめると失敗が少なくおすすめです。
ステップ④:内容を書き込んでいく
ジャーニーの枠組みができあがったら、いよいよ内容を書き込んでいきます。
それぞれの担当者の知識に加えて、営業ツールのデータ、アンケートの回答、利用状況のデータ、顧客へのヒアリングなどをもとに、できる限り顧客のありのままをマッピングできるようにしましょう。
この際、分かりやすく整理できるように、文章だけでなく図表やイラスト、グラフなども必要に応じて使うと良いでしょう。
ステップ⑤:ブラッシュアップ
ジャーニーが一度で理想的な内容になることはまずありえないため、継続してブラッシュアップしてくことも重要です。
できあがったジャーニーをもとに運用しながら、顧客ペルソナ、行動や感情、それに対する施策の内容をより正確なものに修正していきましょう。
常に「顧客目線」で設計していくことを意識すると効果的な運用ができます。
まとめ
マーケティングで用いられることが多いカスタマージャーニーですが、顧客との関わりが深いカスタマーサクセスでも効果を発揮します。
顧客の目線に立って製品体験を整理することで、そこから逆算して正確な支援を設計できるほか、個人の能力やノウハウに頼らない「型化」にもつながります。
もしもいま、効果的な支援ができていない、支援の内容に無駄やバラつきがあると感じているのなら、一度整理してみてはいかがでしょうか。