今回の記事では、ゲストに株式会社リックテレコム・月刊「コールセンタージャパン」編集部の編集長・矢島 竜児 様をお迎えし、
Openpage代表・藤島との対談形式でお送りします。
今回は、混同されることも多い「カスタマーサポートとカスタマーサクセス」の違いや共通項について解説します。
(以下、敬称略)
カスタマーサクセスとサポートは、「お互いのことをもっと意識」すべき!
藤島:
この対談のきっかけとしては、矢島さんから「コールセンタージャパン」という雑誌における「サポートとサクセス」をテーマにした連載についてご提案をいただき、
雑誌の寄稿をさせていただいていることにあります。
矢島さんが「カスタマーサポートとカスタマーサクセス」の交わりや共通点などに興味を持った理由は何でしょうか。
矢島:
「カスタマーサクセス」という言葉を初めて聞いてから結構時間が経ちますが、
最初の頃は正直「バズワードなんだろうな」ぐらいに感じており、
「コールセンタージャパン」の紙面では扱わない方向性だった、というのが正直なところです。
サブスクリプションのビジネスの拡大と、
それを展開するベンダーや会社がカスタマーサクセスという概念や部門を拡大させていく様子を見ていると、
カスタマーサポートとカスタマーサクセスも業務内容が被っていて似たようなことを行っているのに、お互い連携している気配が全くなく、どっちも「互いの事を意識しなさすぎている」印象でした。
読者の中にもサブスクリプション型ビジネスを展開している企業が多くいらっしゃるので、
時期を考えてそろそろ両部門のコンセプトや交わり、連携・融合などを提唱してもいいタイミングにようやく来たということで、
今回5年越しぐらいで「カスタマーサポートとカスタマーサクセス」というテーマでの企画がスタートしたのです。
藤島:
始めに興味を持っていただいたのは2010年代後半ということですね。
確かにその頃はまだ「カスタマーサクセス」という言葉が出始めてきたばかりの言葉だったので、私も当時は正直懐疑的でした。
SaaSの企業やサービスが出始めてきて、少しずつ「カスタマーサクセス」という言葉が広がり、
ようやく2022年になって、バズワードというよりは「今後継続的に使われる言葉や概念」になってきたなと感じています。
カスタマーサポートとカスタマーサクセスの共通項と違う点は?
藤島:
「カスタマーサポートとカスタマーサクセスが同じ事を行っている」というお話がありましたが、どの点が被っていて、逆にどの点が違うと感じますか。
矢島:
「お客様から見てどう違うのか」というポイントだと思います。
「顧客接点」という広い括りにおいては、同じ企業の同じ顧客接点であり、
初期のオンボーディングにおける使い方や支援がカスタマーサクセスで、
トラブルシューティングがカスタマーサポート、といったような形の切り分け方になります。
しかし、これはお客様側から見てこの切り分けがわかるのか?
それをお客様側に考えさせる必要があるのか?と思っているのです。
実際、おそらくカスタマーサクセスの担当者の方に、トラブルシューティング的なネタ(問い合わせ)が入ってくるはずです。
逆も然りで、使い方に関する問い合わせがカスタマーサポートやコールセンターへ入っていると思います。
そこで対応していることが(サクセスとサポートで)違うかというと、特に違うわけではないと思っています。
おそらく同じ内容で回答をしているはずですし、そうであれば両部門はもっと連携すべきではないか、と思っています。
第三者機関の調査やカスタマーサクセスを実践している企業に対する調査を見ても、
サクセスとサポートはほぼ同じ業務内容であると言えますので、
その意味でも「顧客対応」という意味ではかなり共通項が多いと言えます。
藤島:
なるほど。
私はカスタマーサポートとカスタマーサクセスどちらの職種も経験があります。
カスタマーサポート自体は、大手のコールセンター事業者の中で実際に来る問い合わせ対応(インバウンド対応)の仕事と、カスタマーサクセスの仕事もさせていただきました。
その中で、カスタマーサポートの仕事の中でも、
製品の活用方法を案内したり、別プランや別メニューを薦める(クロスセル・アップセルをする)ための電話・メールなども行っていました。
そういう意味では確かに業務内容は近いところにあると感じますし、
「(サクセスとサポートを切り分けるのは)顧客体験的にどうなのか」という問題は大いにあると感じます。
実はカスタマーサポートとカスタマーサクセスに限った話ではなく、
例えば複数事業部があって営業がたくさん出てきたり、
“THE MODEL”が流行っている中で、フィールドセールス、インサイドセールス、カスタマーサクセスがそれぞれ別の担当がバラバラに出てきて、
引き継ぎもうまくいっておらず違うことを言われる、という場面もあると思います。
こういった状況は顧客体験的には良くないでしょう。
同じ会社の中での部門間連携という意味でも、サポートとサクセスが上手く顧客情報を連携したり、どのような案内をするべきかなど、さまざまな連携の在り方があるだろうと考えます。
メディアから見た、カスタマーサクセスとカスタマーサポート
矢島:
僕らはメディアなので一歩引いたところから両方の取り組みの話を聞いていると、
「(連携が取れていないので)少し気持ち悪い感じ」がするのが正直な印象です。
藤島:
「カスタマーサポートの経験者の方がカスタマーサクセスに異動しているケース」が実はまだあまりないのかなという印象があります。
カスタマーサクセス部門におけるサポート職種の経験者は10〜20%くらいでしょうか。
矢島:
そうですね。
(カスタマーサクセス職について、)営業職として求人媒体が募集をし始め、
それが今すごく求人情報の中でバズっている、ということのは事実です。
ここ1年程色々な話を聞いていて、カスタマーサクセスで従来型の営業のプロセスの一部を切り出したものに、サポート的な役割が付随して入ってきているという感じがします。
藤島:
営業における後工程、つまり「受注後の法人営業の工程を切り取ったもの」がカスタマーサクセスの実態だと考えています。
法人取引の中で、アカウント担当をカスタマーサクセスの担当者が担うので、
その過程でサポート的な問い合わせ対応も巻き取って行うことが実態なのではないでしょうか。
矢島:
従来の法人営業においても、
今の「カスタマーサクセス」部門の方の業務範囲までカバーしていたと思うのですが、
日本の労働人口の減少と営業部門の人材枯渇という課題がある中で、
この部分を「カスタマーサクセス」として切り出すという流れは理解できます。
特にサブスクリプション型になると「契約の継続」がキーワードになるので、
最初のオンボーディングの部分が重要であるのは理解できます。
端的に言うと、カスタマーサクセスは「従来型の営業をちょっと楽にするための部門」とも捉えられるのではないでしょうか。
カスタマーサクセスとサポート、それぞれの部門が学ぶべきこと
藤島:
たしかに、カスタマーサクセスという表現をする前から、法人営業などにその役割はありましたよね。
異なる点は「(カスタマーサポートと比べて)カスタマーサクセスの方が営業の匂いが強い」ところですかね。
矢島:
カスタマーサクセスのKPIを見ていても財務的な要素が非常に強いので、組織への貢献度を上手くアピールできていると思います。
こういった文化や考え方は、コールセンターやカスタマーサポートに従事する方たちは学ぶべきだと言えます。
カスタマーサポートの永遠の課題には、「経営貢献度の可視化」があります。
オペレーションの指標はたくさんありますが、KPI・KGIは実はこの20数年見出せていないのです。
藤島:
カスタマーサポートの領域ですと問い合わせの回答スピードであるとか、
オペレーションの部分の指標が中心ですよね。
問題解決をして、そこからどれだけ売上に繋がっているかが見えづらい部分はあります。
「NPS(ネットプロモータースコア)が上がっているか・下がっているか」で売上貢献を測定している、といった例も見たことがあり、
実際に実証したことがありますが、(効果は)そうでもありませんでした。
矢島:
最近、NPSの計測は「実はあまり関係がない」というデータも出ていますね。
藤島:
NPSが高い(お客様が満足している)ことと、売上が高いかどうかは、お客様のお財布事情などにも左右されるのであまり関係ないかなと思います。
一方でNPSが低くても、ちゃんと支払金額が大きい企業もありますしね。
お客様の満足度自体は、財務とは切り離して考えた方が良さそうです。
矢島:
ロイヤリティー指標としてNPSを採用するようになったことは1つの進化であり、それ自体を否定するものではありません。
一方で、「経営貢献」という括りからもう一段階踏み込まないと、
「カスタマーサポートやコールセンターの価値」を経営の人たちに認めてもらうのは難しいと考えています。
経営の人たちに認めてもらうための考え方は、
カスタマーサクセスの人たちがやっていることの中にヒントがあるような気がしているのです。
藤島:
弊社株式会社openpageでもカスタマーサクセスとカスタマーサポート、どちらの事業者様とも話す機会が増えてきていますが、
コールセンター事業者が獲得する案件の中で「カスタマーサクセス的なもの」が少しずつ増えてきたという話を聞きます。
インバウンドの問い合わせ対応だけではなく「既存のアカウントの稼働率を上げたい」という顧客の意図があるようです。
具体的には、「X件架電してどれだけ稼働率が上がったか、さらに稼働率が高いリスト群を抜き出して商談設定率を追う」といった案件もコールセンター事業者が受けているのです。
カスタマーサポートの事業者の、少しずつカスタマーサクセス的な指標を見るような取り組み・案件が増えてきそうだなという印象があります。
矢島:
インサイドセールス的な案件は、元々10年以上前からコールセンターのBPOの方々が請け負っています。
そこでの成果や取り組みのキックとなる部分が「カスタマーサクセス」という言葉でうまく表現されつつあるとなると、余計両者は融合しないといけないのではないでしょうか。
インサイドセールスの部隊はカスタマーサクセスの従事者の方々が担う部分もありますが、オペレーションのノウハウはコールセンターの方が持っていると感じています。
藤島:
10年以上前からコールセンター事業者とテレコール(電話)の現場を見てきましたが、
私もテレコールという領域に関してはコールセンター事業者はやはり「プロ」であり、
マニュアル設計やトークスクリプト作りなどはかなり昔から先進的に取り組まれています。
テレコールでセールスできるということは、カスタマーサクセスでのセールス的な動きも必ずできるので、必然的に両者は混ざり合っていくところだと感じます。
カスタマーサクセス経験者の方は、カスタマーサポートの実際の現場でどういう風に顧客体験として顧客対応を行っているのか、
問い合わせ対応だけではなく販売や顧客体験向上も含めて学ぶべきところが多々あると言えます。
部門間で共有・協働するためには?
矢島:
共有すべき要素というのはたくさんありますので、
誰かが「ハブ」にならないとお互い上手く共有するようなステージが作れません。
今回雑誌「コールセンタージャパン」の中に、カスタマーサクセスの情報にある程度特化したコーナーを作った動機は、
藤島さんに連載をしていただきコールセンター側の人たちにも学んでもらいたい。
カスタマーサクセスの人たちはこのコーナーをキックにして、コールセンターの情報を紙面から得ることで、より進化した組織をお互い作っていってほしい。
こういった「ハブ」的な役割を、我々がメディアとしてできればと考えています。
藤島:
確かにその領域を切り込めるのは、今の日本の雑誌だとコールセンタージャパンさんしかいませんね。
矢島:
カスタマーサクセスに特化したメディアが無く不思議に感じています。
カスタマーサクセスの従事者の方々が何か情報を得たい場合、オウンドメディアかソーシャルメディアが主な情報源になっていますが、
我々のようなレガシーなメディアがカスタマーサクセスの領域に踏み込むことで、新しい価値などが生まれたら良いなと考えています。
藤島:
私もメディア系の仕事をしていた時期が一時期ありましたが、
カスタマーサクセスとカスタマーサポートの交わりの部分に第三者の視点がもたらされ、「コールセンタージャパン」という雑誌がカスタマーサクセスを上手く表現して頂けるということは、業界的には非常にありがたい話だと言えます。
オウンドメディアだと、どうしても「企業のバイアス」が出てしまいます。
株式会社openpageでも現在オウンドメディアを行っていますが、そこはかとなく自分が伝えたいことが「バイアス」として出てしまいます。
一歩引いた時、社会的な目線に立った時にどうなんだ、どういう見え方なんだ、というところをメディアの中で語って頂くということが、必要な役割だと考えています。
矢島:
融合というよりも連携・共有のプロセスに一歩踏み込めるような、提案、提言みたいなものを紙面を通じてやっていきたいですね。