カスタマーサクセスが顧客の成功に伴走することは、ロイヤルティ(信頼・愛着)の向上にもつながります。顧客からの高いロイヤルティは、契約更新やアップセル・クロスセルをもたらすため、事業にとっては欠かせない観点です。
では、どのようにして顧客のロイヤルティを把握すれば良いのでしょうか。代表的な手法としては、NPSという指標が挙げられます。シンプルでありながらビジネスとの相関性も高く、世界中の企業で利用される有用な指標です。一方で、NPSには弱点もあり、単純に取り入れれば良いというものではないことにも注意が必要です。
今回は、顧客ロイヤルティを測るためのNPSについて、その概要から注意すべき点、具体的な活用のポイントまで解説します。
カスタマーサクセスの指標NPSとは?
カスタマーサクセスにおいては、様々な指標があり、どの指標をKPIにしているかは各社頭を悩ませていることでしょう。そのKPIの中でもとくに関心が高いNPSという指標について、まずは理解を深めていきましょう。
カスタマーサクセスにおける他のKPIに関しては、こちらの記事でも解説していますので、併せてご一読ください。
【参考記事】カスタマーサクセスのKPIにはどんなものがある?フェーズごとに重要な指標も解説
NPSとは?
NPS(ネット・プロモーター・スコア)は、顧客ロイヤルティを測る指標で、日本語では「顧客推奨度」と訳すことができます。
「あなたがこの企業(製品/サービス/ブランド)を友人や同僚に薦める可能性はどのくらいありますか?」という質問を顧客に対して行い、0〜10の11段階で回答してもらいます。
多数の顧客に対して調査を行い、回答を集計することで、製品/サービス/ブランドが顧客にどのくらい受け入れられているのかをスコアで把握することが可能になります。
スコアの算出方法
NPSの調査への回答は11段階に分かれており、0〜6を「批判者(Detractors)」7、8を「中立者(Passives)」9、10を「推奨者(Promoters)」と分類します。
それぞれの分類への回答の割合を集計したうえで、以下のようにNPSのスコアを算出します。
推奨者の割合(%) ー 批判者の割合(%) = NPS
例えば、自社顧客100人に対してNPSの調査を行い、0〜6点と回答した人が10人、9、10点と回答した人が20人いた場合、NPSスコアは10ということになります。
業界や国ごとにスコアの基準は大きく異なり、特に日本では回答者の心理が影響してマイナスの数値になることが多いため、比較の際には注意が必要です。
顧客満足度(CSAT)との違い
NPSとよく似た指標として、顧客満足度(CSAT)が挙げられます。それぞれ調査できる内容に違いがあるため、理解して使い分けることでより正確な顧客状態の把握につなげましょう。
NPSは、顧客がサービス/製品を「他者におすすめする可能性」を問うのに対し、CSATは「満足しているか」を問います。よく似た意味にも思えますが、NPSは長期的、包括的なサービスへの印象を表し、CSATは現時点でのサービスへの印象をより強く反映します。
それぞれの特徴から、短期的な取り組みの効果や顧客感情を測るのにはCSAT、長い目での顧客ロイヤルティの把握にはNPSが適していると言えるでしょう。
なぜNPSがカスタマーサクセスにとって重要なのか
次に、NPSがなぜカスタマーサクセスにとって重要なのかを解説します。
ビジネスの成長と強い相関がある
NPSの大きな特徴として、ビジネスの成長との関係が挙げられます。NPSスコアと収益成長の度合いに強い相関性が見られたという調査もあり、単なる顧客感情に関する指標を超えた重要性を持っています。
先ほど述べた通り、NPSの調査はより包括的なサービスへの印象を問うため、「プロモーター」層に当てはまる顧客は、契約更新、アップセル・クロスセル、他社への口コミなど、収益につながる行動を高い確率で期待できるのです。
PMF(Product Market Fit)にも関わる
収益のほかに、市場にどの程度適合し、受け入れられているかも企業にとって重要な焦点です。どんなに良いサービスでも、適切な市場に展開しなければ成功するのは難しいでしょう。
PMF(Product Market Fit)という言葉でも表されるこの考え方は、重要であると同時に、正確に把握しづらいという難点がありますが、実はNPSはこのPMFを測るための指標としても有用であると言われています。
NPSが高いということは「口コミをしたい」サービスであることを表し、市場に適合していると解釈できます。
扱いやすく、比較もしやすい
扱いやすさもNPSの特徴です。シンプルな質問ひとつで完結するため、顧客の回答率も高く、集計についても複雑な処理を必要とせず、非常に簡易に済みます。これは定常的に分析を行うにあたっては大きなメリットと言えるでしょう。
また、広く利用されている指標であるため、業界のベンチマークや自社他サービスとの比較もしやすく、サービスの立ち位置を具体的に把握することができるというメリットもあります。
NPSには弱点も存在する
メリットの多いNPSですが、注意すべき欠点もいくつかあります。もっとも大きなポイントとしては、単体の調査では具体性が足りないということでしょう。
NPSは顧客ロイヤルティの全体像を把握することはできますが、例えば低い点をつけた「批判者」がどんな問題を抱えているかまでは読み取ることができません。顧客の状態をより具体的に把握するには、定性的なアンケート調査やヘルススコアの分析などで問題を特定する必要があります。
また、NPSに限らず、ただ調査を行うだけでは十分でないことも忘れてはいけません。調査はあくまで現状の把握であり、スコアに基づいて改善のためのアクションプランを策定、実行しなければ、顧客ロイヤルティの改善にはつながらないのです。
NPSをカスタマーサクセスに活かすための3つのポイント
次に、NPSをカスタマーサクセスの取り組みに活かすためのポイントを紹介します。
回答率を高める
NPSのスコアは、回答する顧客が多ければ多いほど正確なものになり、目安として400件の回答を集めることができれば、統計的にある程度信頼できる数値が出ると言われます。よって、回答率を高める工夫が重要になります。
まず考えられるのは、タイミングについて。カスタマージャーニーにおけるイベント、例えば定期MTGやユーザー会、新機能のリリースなどと合わせて実施することで、顧客の興味を惹くことができるでしょう。
また、アンケートを実施する方法も重要です。メールやチャットはもちろん、サービス内のログイン画面やメッセージと、送信するチャネルによって反応が異なることが予想されます。それぞれの方法で実施して、反応の良いものを見極めましょう。
回答者のセグメントごとに分析する
顧客全体のロイヤルティを把握することももちろん重要ですが、回答を顧客のセグメントごとに分析してみると、より具体的な傾向が見えるかもしれません。
顧客の契約規模、担当者の役職、サービスの活用状況といった属性で分類して、それぞれスコアを比べてみましょう。分類ごとに明確な差が存在するケースが見つかれば、スコアの低い層を他のKPIも含めてさらに詳しく分析することで、具体的な問題の把握につながります。
回答をサービスや支援の改善につなげる
NPSはあくまで調査であり、それ自体が顧客ロイヤルティの改善をもたらすものではありません。回答を集め、スコアを把握したうえで、実際にサービスや支援に反映する必要があります。
前述の分類ごとの分析や他のKPIに基づく調査、あるいはNPS調査に付随した定性的な意見によって問題点を把握し、支援やプロダクトをすばやく改善しましょう。
こうした改善サイクルを回すことで、長期的にNPSスコアおよび顧客ロイヤルティは着実に向上するはずです。
なお、こうしたNPSを活かすための取り組みをスムーズに実施するためには、ツールを導入するのも良いでしょう。カスタマーサクセスクラウド「openpage」なら、アンケートの実施やKPI分析、コンテンツ配信による支援まで、NPSをカスタマーサクセスに取り入れるための機能が全てそろっています。
まとめ
この記事では、カスタマーサクセスにとって重要なKPIであるNPSについて解説しました。顧客ロイヤルティを把握するための代表的な手法であるNPSは、収益の成長や市場との適合などとも関わり、企業活動に多くのヒントを与える有用な指標と言えます。
一方で、単に調査を行うだけではロイヤルティの改善は実現できないことにも注意が必要です。実際にカスタマーサクセスの取り組みに活かすためには、回答率を高める、セグメントごとに分析する、回答をサービスや支援の改善につなげるといった点を重視しましょう。